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各キャリア戦略がカバー率や速度、品質で見えてきた【石川温氏寄稿】

2012年10月19日 12時30分更新

今年の冬はLTE端末どうしの戦いに

 ケータイキャリア3社の年末商戦向け新製品がすべて出そろった。いずれもLTEを全面に押し出した“超高速スマホ”どうしの戦いとなる。

 今回発表されたのは、ドコモが9機種、KDDI(au)が9機種、ソフトバンクが6機種というラインアップ。ただし、ドコモとKDDIが“冬モデル”のみの発表であるのに対し、ソフトバンクは“冬春モデル”という構成となる。冬春を通して新端末がたった6機種というのは、他キャリアに比べても相当少ないと言えるだろう。

 ソフトバンクにとっては、Androidスマートフォンは発表したものの、やはり主力は『iPhone 5』ということになりそうだ。

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急速にLTE環境を拡大するソフトバンク

 発表会ではiPhone 5向けのLTEネットワークの優位性を示そうと、KDDIが541市区町村に対応しているのに対し、ソフトバンクは1090市区町村で対応しているとアピール。

 また、東海道新幹線のほとんどの駅でもつながるとして、孫正義社長は「都心だけでなく全国でつながる。他社との比較を一生懸命に語っても人間が小さく見えてしまうが、競争することで、お互いが切磋琢磨するという意味で前向きにとらえている」と、あえて自分が小さく見えてもいいから、KDDIには勝っているということを再三アピールしていた。

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 だが、9月のMNPで1200件しか増えなかったなど、KDDIに対してはiPhone 5で劣勢に立っているのは間違いない。そこで孫社長は、iPhone 5でテザリングを安定して提供したいがために、業界第4位のイー・アクセス(イー・モバイル)を買収。1.7GHzと2.1GHzというマルチバンドでiPhone 5向けのネットワークを運用していく構えだ。

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 実際にマルチバンドでの運用は来春以降になるものと見られる。だが、複数の周波数帯を使って運用していくのに対し、ライバルであるKDDIの田中孝司社長は「まずコアの部分から統合しないといけない。マルチバンドは大変で、そんなに簡単にできるものではない」と冷ややかだ。

 イー・アクセスとの経営統合後、どのタイミングで2社のLTEネットワークを融合できるかに注目が集まりそうだ。ソフトバンクはイー・アクセスとの経営統合を実現できたため、テザリングの開始日を来年1月15日から今年の12月15日に前倒ししてきた。ネットワーク帯域の逼迫を防ぐには、2社のネットワーク統合は急務だ。

 なお、ソフトバンクのAndroidスマホは、“AXGP”という技術を使って高速化を実現する。今回発表された6機種もすべてAXGP対応だ。AXGPは、中国などで普及が進もうとしている“TD-LTE”と「100%完全互換」(孫社長)という規格だ。

 ソフトバンクは、iPhone 5向けのLTEと、TD-LTEをいっしょにしてLTEとしてプロモーション展開しようとしたようだが、どうやら横槍が入ったようで、iPhone 5向けは『4G LTE』、AXGPは『4G』という分け方になっている。

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 AXGPスマホは下り最大76Mbpsでの通信が行なえる。2.5GHzでの運用なのでエリアに広さには不安があるが、ユーザーが少ないため、つながればかなり高速で通信できそうだ。

ライバルに飲み込まれたドコモ

 一方、すでにLTEネットワークを2年弱展開しているものの、あまり元気がないのがドコモだ。『Xi』という名称だったサービスを、 ソフトバンクとKDDIがLTEと積極的にアピールしていることに流されるように、今秋から『ドコモ LTE Xi』と、あえてLTEという単語を追加してきた。

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 「LTEでは一日の長がある」(加藤薫社長)と言いつつも、あっという間にライバルに飲み込まれた格好だ。

 エリア整備においては、2012年度末において全国で2万1000局という計画から2000局増やして約2万3000局にする予定。これにより、人口カバー率は約75%になる。このうち、全国の県庁所在地にある4000局で、下り最大75Mbpsの通信が可能となる予定だ。

 また、2012年11月より1.5GHz帯および800MHz帯でのLTEのサービス提供がスタートする。1.5GHz帯は15MHz幅×2となり、下り最大100Mbpsでのサービスが実現する。

 ただし、利用できるエリアは新潟や富山、石川、福井、愛媛、徳島、香川、高知、沖縄などのみ。都心部は周波数帯が確保できないということで、現時点では対応は難しい。

 下り100Mbpsという高速通信をうたい文句にするものの、需要の多い首都圏で対応できないのがもどかしい。

回線品質に自信を見せるKDDI

 KDDIは100Mbpsを超えるサービスは2013年以降になるものの、Android向けLTEサービスは10月末で実人口カバー率で84%、2012年度末で96%を達成する見込み。

 空いている2GHz帯を使い、一気に全国で75Mbpsのサービスを実現する。KDDIの強みは、つながりやすいとされる“プラチナバンド”の800MHz帯でLTEを展開している点だ。

 基地局の数の多さをアピールする孫社長に対し、「数はいくらでも作れる。我々は品質を大事にしたい」と田中社長は語る。

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 KDDIでは、ユーザーがLTEエリアから3Gエリアに移動する際、ネットワーク側のユーザーの動きを予測し、すぐにハンドオーバーできる仕組みを備えている。また、3GネットワークからLTEエリアを端末に通知できるため、端末が何度もLTEの電波を探す必要がなく、バッテリーの消耗を抑えられる仕組みもある。

 ざっくり言うと「頭の賢いLTEネットワーク」を構築しており、つながりやバッテリーの面で、他社よりも優れたLTEに仕上がっているわけだ。

 
 KDDIの田中社長は「(ソフトバンクがスプリントを買収したが)企業が拡大していくのも大事だが、我々はお客様が本当に望んでいるものかは何を考えていきたい。お客様が望んでいるものに対して、リソースを投入していかないといけない」として、国内ネットワークの品質向上を約束した。

人気端末の重複がより顕著に

 端末ラインナップで見ると、iPhone 5から『GALAXY S III Progre』、『Optimus G』、『Xperia VL』、『HTC J butterfly』、『AQUOS PHONE SERIE』と人気ブランドから個性派まで何でもそろうのがKDDIだ。

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 一方、iPhone 5を主力とするソフトバンクは 『AQUOS PHONE Xx』というハイエンド端末があるものの、他はファーウェイの『STREAM』やモトローラの『RAZR M』などで、Xperiaなど他キャリアで人気の端末がないのが寂しいところだ。

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 ドコモはクアッドコアの『GALAXY S III α』を筆頭に、『GALAXY Note II』、『AQUOS PHONE ZETA』、『Xperia AX』、『MEDIAS U』、『Optimus G』などをラインアップ。

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 サムスン、LGエレクトロニクス、ソニー、富士通、シャープはマルチキャリア展開を強化しており、ドコモとKDDIのインアップには、人気ブランド端末がかなり重複している。スマホ時代となり、端末ラインアップでの差別化がより一層しにくくなっている現状が見えてくる。

 
 KDDIは、春モデル『INFOBAR』の存在を明らかにしている。メーカーブランドが定着していく中、INFOBARのような独自ブランドを少しでも育てていくのが、今後のキャリアの課題となるだろう。

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