2012年10月05日11時30分

ジョブズ逝去から1年のアップル、iPhone5、地図アプリに想うこと

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スティーブ・ジョブズ
↑↑2006年、WWDC06にて撮影。壇上に立つスティーブ・ジョブズCEO(当時)。

 アップルファンから、「iPhone5がつまらない」、「iOS 6の地図機能には幻滅した」という話を耳にすることが多い。
 うーん、そうかも知れない。
 iPhone 5は2年ぶりのデザインリニューアルなのに、見たこともないような新機能を備えていない。事前のリーク情報でみた情報そのままだった、と言われれば、その通り。iOS6の地図については、ベータ版の段階から「本当にきちんとした出来になるのか」と心配されていたが、やはり、多くの人にとって満足にはほど遠い出来になってしまった。

 でも、だ。
「彼がいれば、iPhone5はもっと面白くなった」、「彼だったら、iOS6の地図をあんな状態で世に出すことはなかった」、「彼なら、地図の出来が悪くても謝ったりはしなかった」と言うのは、違うと思うのだ。
 スティーブ・ジョブズはすごい人だった。iPhoneが出来たのは、確かに彼のこだわりがあったがゆえだろう。しかし、「スティーブは間違わなかった」「スティーブは必ず成し遂げた」「スティーブは間違いを認めなかった」と思い込むことは、むしろ彼の本質をゆがめる。

 アップル、そしてスティーブ・ジョブズはたくさんの失敗とともにある。その多くはすぐに忘れられてしまい、輝かしい成功ばかりが記憶される。音楽プレイヤーでも、その周辺機器でも、そしてネットサービスでも、アップルが思ったようにことが進まなかったことは数多い。ここ数年だけでも、広告サービスの『iAd』に、音楽SNSの『Ping』(2012年9月末で終了済み)、ここ数世代のiPod nanoなどは成功とは言えない。

 ネットサービスに関して言うならば、2000年に『iTools』として提供が開始されて以降、『.Mac』→『MobileMe』→『iCloud』と世代を重ねてはいるものの、動作速度や安定性の面で、Googleやマイクロソフトに比べ見劣りするのは間違いない。電子書籍ストアであるiBook Storeだって、アメリカではAmazonにやられっぱなしで、大きな成功を収めることができていない。余談だが、日本ではAmazonやiBook Storeを過大評価する向きが多い。確かにすごいサービスなのだが、弱みだって失敗だってある。特にiBookStoreは、AmazonのKindleに比べれば革新性は小さい。

 アップルにもスティーブ・ジョブズにも苦手なことはあった。見誤りもあった。失敗するし、色々と毀誉褒貶もあるけれどすごい人。そんな“完璧でない人”だからこそ、スティーブ・ジョブズという人は非凡な人だったと感じる。
 それは、今回についても同じだ。

 iOS6の地図の現状に関して、ティム・クックCEO自身が謝罪コメントを出した。ユーザーに大きな影響を与える事項については、トップが可能な限り素早く状況説明を行う。これが、スティーブ・ジョブズ晩年のスタイルであり、後継者であるティム・クックもそれに倣っている。
 なぜなのか?
 それはティム・クックが、スティーブ・ジョブズから受け継いだ“顧客と向き合うことが第一”という姿勢を貫こうとしているからだ。
 ダメな地図サービスを出してしまったことは、顧客優先主義から離れている。それは責められてしかるべきだ。他方で、では“今後なにをするのか”、“今顧客になにをすべきか”の姿勢を示すことで、信頼を得る努力を見せ、顧客の心が離れることをできる限り防ぐことが、アップルがまずすべきこと、とされているのだろう。

 スティーブ・ジョブズが、近年体調不良であったことはよく知られている。彼はそのことを意識していたのだろう。この数年、現在のエクゼクティブ・メンバーとともに、今後アップルを運営するためにどうするべきか、という施策をディスカッションする時間を長くとっていた、と言われる。アップルの現在の強みは、少品種の数千万台規模の量産を軸にした高品質なモノ作りだが、それもジョブズとエクゼクティブメンバーのディスカッションの中から、“持続的に良い製品を提供するにはどうすべきか”という命題を解決する方法として生み出されたものだ。

 いかにアップルの強みが長く続けられるのか。晩年のジョブズが考えたのは、おそらくそれだったのだろう。そしてその方策は、現在大きく実を結んでいる。

■「いきなり製品の質が悪くなる、と考えるのはむしろ無理がある。」

スティーブ・ジョブズ
↑WWDC06にてOSX Leopardのデモンストレーションをみせるスティーブ・ジョブズCEO(当時)。

 ジョブズがいなくなって、いきなり製品の質が悪くなる、と考えるのはむしろ無理がある。製品は彼一人でできるものではなく、チームのものだ。チームが同じである以上、製品作りの方針はそうそう変わらない。もちろん、数年をかけて変質していくだろうが、変化があったとすれば、それはすでに数年前から始まっていたはずだ。
 iPhone5に驚きはなかった、という人はいても、iPhone 5は出来が悪い、という人はほとんどいない。技術的な洗練度を考えると、iPhone5はとても良く出来ており、やはり、現状もっとも良くできたスマートフォンの一つであることに間違いはない。大量に生産しており、それだけに周辺機器でも莫大なビジネスが生まれている。
 そうなると、今までのように情報を守るのは難しくなっていく。情報のリークが増えてくるのも無理はない。他方、iPhone5を目的に、販売店にできた行列の長さや予約の数では、これまでよりずっと多い実績を示している。iPhoneが好きでたまらない人だけでなく、「そろそろスマートフォンにしないといけない」と思っている人をも引きつけたのが、成功の理由だろう。

 そういう意味では、ジョブズが敷いてくれたレールは、ここまでほぼ巧く行き、iPhone全盛の時代を作ることができた。この数年、ジョブズと彼のチームがやろうとしていたことは、ハードの面ではおおむね完成した、といっていいだろう。
 だからこそ、そろそろ、スティーブ・ジョブズに「さよなら」を言って、ゆっくり眠らせてあげる時期が来た。成功も失敗もジョブズのせいだと思うのではなく、「新しいアップルのメンバー」の責任とする時代だ。

 その最初の試練が『地図』であり、それをアップルがどう乗り越えていくかが、これからのアップルの行き先を決める、といえるだろう。
 実は、ちょっと気になっていることがある。
 それはiPhone5ではなく『iPod touch』だ。

スティーブ・ジョブズ

 発売はまだだが、iPhone 5と同時に発表された第5世代iPod touchは、久々のフルモデルチェンジとなった。ディスプレイの品質はiPhone 5と同じになり、デザインも大幅に変わって、iPhone5以上に大きな変化がもたらされた。カメラの機能も大幅に向上している。ハンズオンイベントで短時間触ってみたが、その感触は良好だ。

スティーブ・ジョブズ
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 第五世代iPod touchには、iPhone5にないものがある。それが『iPod touch loop』と呼ばれるストラップだ。なぜこの製品にだけストラップが付いたのか? あるアップル関係者に尋ねると、こういう答えが返ってきた。
「カメラを強化したからね。iPod touchは、特に十代に人気がある。彼らにとっては最初に触れるアップル製品なんだ。しかも現在、それは『初めて使うカメラ』にもなっている。だからしっかり、カメラとして使えるようにしたい。カメラならストラップはいるよね」
 むむむ。なるほど。
 iPod touchは“廉価版”じゃなく、“マイ・ファースト・アップル”なのだ。今回のリニューアルでここに力を入れたのも、これからアップル製品を使い始める人々に、良いアップルファンになってもらいたいからなのだろう。
 その成果はもちろん、“次”に出てくるすごい製品で効いてくる。第5世代iPod touchはそのために力を貯める製品なのかも知れない。
 スティーブなきアップルの本質は、このあたりから計れてくるのではないだろうか。第5世代iPod touchの出来の良さからすると、そんなに悲観するものでもない、と期待したくなるのだけれど……。

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