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想いをつなぐ編集力

ツッコミや不満は「資源」です!――アイデアのつくりかた

2012年10月01日 16時30分更新

 ぼくらのように、いろんなことを考えてなにかをつくる仕事をしていると、よく聞かれる質問があります。

「どうやるとアイデアが思いつくの?」
「どんなときにアイデアが浮かぶの?」

 じつはいつも、この質問に対しての答え方に困っていました。「思いつく」とか「浮かぶ」とか、そんな感じではないからです。なにもない空間にアイデアがピカーンとあらわれるイメージで聞いているのではないかと思うのですが、実際はちょっと違います。アイデアは、どちらかというと、すでにそこにある何かを「見つける」ものだと思うのです。

 偉人たちの話として、リンゴが落ちたのを見てひらめいたとか、お風呂に入っているときにひらめいたとか、そういうエピソードがたくさんあります。でも、リンゴが落ちたのを見た人はたくさんいますが、みんながニュートンのようにひらめくわけではありません。ニュートンは、それまでずっとそのことを考えていたから、リンゴが落ちるのを「きっかけ」にして、万有引力というアイデアを発見できたのです。

 「ずっと考える」というのは、ひとつのヒントになりそうです。次に問題になるのは、「何を」でしょう。考えるならば、意味のあることを考えたいものです。「何を」は、どうやって見つければいいのでしょう?

 

■ツッコミと不満をだいじにする

 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』などのベストセラーを編集した柿内芳文さんは「普通に生活をしていて、いろんなものにツッコミを入れてます」と言っていました。さおだけ屋は、休日に家にいるときにあのアナウンスが聞こえてきて「なんでつぶれないんだろう?」と思ったのがきっかけだそうです。たんに「さおだけ屋か。なつかしいな」だけでなく、ツッコミを入れているのがさすがです。

 それとは別に、公認会計士の山田真哉さんと話していて、ビジネスマンはもっと会計の知識を身につけたほうがいいと思ったそうです(これも社会へのツッコミです)。そこから、「さおだけ屋と会計をくっつけると会計をわかりやすく、面白く伝えることができるのではないか」というアイデアが生まれ、『さおだけ屋はなぜつぶれないのか?』ができたそうなのです。ふたつのツッコミが、ひとつのすぐれた企画になったわけです。

 ぼくも柿内さんと似ていて、世の中のいろんなことに対して「不満」を抱いています。ツッコミの、より性格の悪いバージョンが不満だと思っていただければいいのですが(笑)、本当にいろんなことに対して「なんでこうなってないんだろう?」「こうしたらもっとよくなるのに」といったことを常に考えています。たとえば、自動販売機のボタンの配置や飲食店の動線にまで文句が浮かぶので、黙っているのがたいへんです(口に出ることもあります)。

ツッコミや不満は「資源」です!――アイデアのつくりかた

 『英語耳』は、リスニングの上達には「慣れる」以外の方法はないのか?という「不満」からはじまっています。『スタバではグランデを買え!』は、経済学はもっとわかりやすくできるはずという「不満」がもとにあります。『もしドラ』も、「経営とかマネジメントって、誰でもできる「技術」に落としこむことって無理なのかなあ?」という不満がもとにあります。それぞれの不満に、著者のみなさんとのすばらしい出会いがあり、企画が生まれています。

 

■アイデアマンは「わがまま」か「人格者」

 不満を大事にして、ずっと考えて、それらを組み合わせて、アイデアを生み出す。これは冒頭の質問へのひとつの回答でしょう。ただ、ひとつ問題があります。ツッコミが多い人はまだいいと思うのですが、不満が多い人は、幸せに生きていくことができるのでしょうか? 生活していると、ちょっとした違和感は見なかったことにしたほうが、快適に暮らせることは多いものです。また、本人がよかったとしても、文句が多い人の周囲の人はたいへんです。

 これに対して、みんなどうしているのかを見てみると、アイデアが豊富な人は二つのタイプにわかれることに気づきました。

 ひとつ目は「めちゃくちゃわがままな人」です。不満やツッコミを素直に表出していて、その結果、アイデアも豊富なひとです。ポジティブに言うと「マイペース」なひとです(笑)。これはこれで、周囲さえよければ、問題ないのかもしれません。

 もうひとつは、「不満やツッコミは心のなかにとどめて、すごいアイデアだけを外に出す、すごい人格者」です。超一流のアイデアマンはこっちが多いと思います。アイデアを実現させるのは、ひとりだけではできません。大きなアイデアほど、実現の過程でたくさんのひとの力を借りる必要があります。もしかすると、若い時は前者で、だんだんこっちにバージョンアップすることもあるのかもしれません(そうだったらいいなあ)。

 というわけで、今回はそろそろおしまいです。なぜか、アイデアから人格の話にまでつながってしまいましたが、アイデアをつくるには、ツッコミや不満はだいじな「資源」になります。この方向で生きていきたい奇特な人は、文句いっぱいで、でも楽しく、がんばっていきましょう。

【筆者近況】
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
株式会社ピースオブケイクCEO。アイデアあふれる編集者・佐渡島庸平さん @corksady が出版エージェントとして独立しました。面白いことがたくさん起こりそうで楽しみです。

■関連サイト
cakes(ケイクス) クリエイターと読者をつなぐサイト
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