2012年09月14日22時30分

iPhone 5に足りないモノ by 本田雅一

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 週アスの副編(自らは副変と言っているが)ACCNは昨年から多数のモックアップを(何万もかけて勝手に)つくってたというiPhone 5だが、とうとう本物が発表された。予想通りの縦長フォルムに頬を弛ませ「ホラね」と爽やかな笑顔を見せるACCNを、ここサンフランシスコへの出張によって見なくて済んだことは幸福の極み……というのは冗談として、新iPhoneの感想を書いてねと依頼が来たので、少しばかりiPhone 5について筆を進めたい。

ACCNによるモック(3度目) 実際のiPhone 5
iPhone5 iPhone5

 とはいえ、iPhone 5に関しては昨日の間に、もう語り尽くされた感がある。加えて筆者はiPhone 5のハンズオンには触れていない。細かな仕様を今さら説明してもあまり意味をなさないだろうし、まして使用感などは語る資格さえない。しかし、編集部から伝わる声や操作感の映像などを見る限り、新たにLTEに対応して第4世代の高速携帯電話網に対応したiPhone 5は、現時点におけるスマートフォンの完成形になりそうだ。

iPhone5
↑ちなみにACCNによれば、iPhone 5は(4Sと比べ)まず、軽い! と感じ、次に画面が(縦に伸びただけとはいえ)とても広く感じるのだという。

 “ユーザー体験”という切り口で見たとき、iPhoneの良さは”作り手によって、きちんとマネージされていること”にある。Androidの場合、端末メーカーが自由にハードウェアを開発し、それに合わせてAndroidをカスタマイズするが、iPhoneは利用シナリオを多数描きつつ、そのシナリオに合わせて快適な使用感、ユーザー体験が得られるように、サービス、ソフトウェア(OS、アプリ)、そしてハードウェアを同時に整えていく。

 CPUとGPU、ユーザー体験を高める上で、もっともバランスの良い半導体資源の配分はどのくらいか、予想されるアプリケーションと消費電力を考えるとき、バッテリー容量(当然、大きさ、薄さにも関係する)とパフォーマンスのバランスをどう捉えるべきか、ディスプレーの解像度と快適な操作性を考えたときに必要な性能のバランスポイントなど、すべてアップルがコントロールしている。iOSの機能拡張や標準アプリの機能も、それぞれの世代にマッチするハードウェアに合わせて”どこまでできるか”を検討し、組み込んでいる。

 Androidの世界では、可能な限りiPhoneの世界に近付こうとサムスンなどが奮闘しているが、本質的にiPhoneとiOSのようなアプローチを取る事が難しい。もし、AndroidでiPhoneのようなハードとソフトとサービスが完全に統合された体験を演出すのであれば、Windows Phoneのようにハードウェア仕様をタイトにまとめ、特定仕様のプラットフォームに合わせてOSのつくり込みをしなければ難しいだろう。

 スマートフォンに必要とされる要素を、すべて1社が管理して製品をつくり上げることができているのはアップルだけだ。iPhoneを他社がまねできないのはある意味当然のことだと思う。もちろん、Androidには自由がある。多様なハードウェアがあり、上位製品からミドルクラス、ローエンドと価格に応じて多くの端末が市場を棲み分けている。それによって利益が出にくい構造になっているが、ユーザー視点で見たときには多様性が魅力となることも少なくないだろう。

 しかし、様々な用途に対応でき、パフォーマンス、ユーザーインターフェース、バッテリ-持続時間などのバランスに優れた1台ならiPhoneを選べば間違いない、という状況は数年来、変わっていない。

 もっとも(杞憂であればいいのだが)、iPhone 5が頂点を極めようとしている今、逆にアップルの手詰まり感も感じている。確かに世界で最も人気のある、世界でもっとも収益性の高い端末だけに、今後も多くの投資によって次々に進歩はしていくだろう。しかし、イノベーティブ……すなわち、世の中を変えるような業界ルールの刷新を象徴する存在であり続けるかどうかには疑問を感じた。

 かつてのiPhoneは、毎回、新たなイノベーションを起こしてきた。スマートフォンには、“他の事業領域にかかる何か”を浸食していくという基本的な特性があり、たとえばボイスレコーダーや電子辞書などの機器はスマートフォンの時代には生き残るのが難しくなっていく。アップルはスマートフォンとしては随一と言えるカメラの高画質化(ハードとソフトのコラボレーションがなければできない)や、各種センサーの搭載とそれらを活用したアプリケーションの提案、連動するiCloudといったサービスの統合などにより、イノベーションの端緒となるムーブメントを起こしてきた。

iPhone5
↑iPhoneのカメラの使いやすさ、画質には定評がある。4S→5では、画素数は800万画素と変わらないが、顔認識機能や手ぶれ補正が強化、 ビデオ撮影中の写真撮影も可能になった。
スイングパノラマ
iPhone5
↑本体を水平に動かしてパノラマ写真をつくれる。操作は単純、しかし高度な調整が瞬時に行なわれている。

 ところが、iOS6とiPhone 5の組み合わせには、その部分がない。一方で感じるのが、他社の事業領域をiPhoneに取り込もうとする意思だ。グーグルのサービスへの依存を意図的に減らしてきたアップルは、とうとう地図機能のグーグル版採用をiOS6で外した。背景としては、グーグルがベクター形式のマップデータを提供しないなど、グーグル側によるサービス品質の差異化がある。ならば自社で取り込もうというのだろう。

iPhone5
↑地図アプリは独自のものに。グーグルの地図もアプリとして提供される見込みだ。
進む脱グーグル依存
iPhone5
↑同じくグーグルのサービスであるYouTubeがホーム画面から消えた。すでにYouTubeのiOSアプリが提供されており、インストールすれば引き続き利用は可能だ。

 ただ、スイングパノラマによく似た機能にしろ、カーナビゲーションと同等の経路案内にしろ、アップルオリジナルでもなく、アップルによる刷新でもなく、ほかの製品の良いところを取り込んでいけばいい、といった雰囲気を感じてしまった。たんに”イノベーションの狭間”なのかもしれないが、ネタ切れによって進化の方向を他社(あるいは他業界)から拝借する、という方向に動いているのではないか? という懸念を抱いている。

 たとえ従来からあるアイディアであっても、iPhone上のソフトウェアとして実装し、優れたユーザーインターフェースとネットワークサービスとの統合を実現すれば、ユーザー体験のレベルは新しいものになる。しかし、それをイノベーションと言えるかどうかは微妙なところかもしれない。

 また、新機能として訴求しているポイントが、国ごとの事情に依存する部分が増えていることも懸念材料だ。たとえばカーナビゲーションは、各国の道路事情に合わせたデータとつくり込みが必要だ。Siriの言語認識はもちろん、ローカル検索などSiriに連動するコンテンツなども国ごとのローカライズがなければ使い勝手は数段落ちる。Passbookのような機能も、バーコード・スキャナの普及状況などインフラ面とネットサービス側の両方の対応が必要で、これも国ごとに対応しなければならない。

 もし、アップルが米国優先で開発し、便利な機能を提案することができれば、あとはサービスやインフラがアップルに対応する──と思っているのであれば、消費者に対して真摯な姿勢を見せ続けてきたアップルの傲慢な一面が見え始めているのかもしれない。

 iPhone 5は(NFC非搭載という残念な面はあるが)現時点で、もっとも幅広いユーザーに適したスマートフォンだ。筆者も是非とも使いたいと考えている。製品としての完成度の高さを考えれば、iPhone 5を選ばない理由はないのでは? と思うほどだ。

 しかし、優れた製品ではあるものの、残念なことにイノベーティブな製品ではない。アップルとiPhoneが、今後もイノベーティブな存在であり続けるかどうか。製品の善し悪し以上に、来年以降のアップルが“どのような会社であろうとするのか”。その動向に注目をしていきたい。

iPhone5まとめ

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