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【私のハマった3冊】定職に就かず大言壮語ばかり 孔明って実はこんなヤツだった!?

2012年09月06日 18時30分更新

wambook

泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部
著 酒見賢一
文藝春秋
1890円

ろくでなし三国志
著 本田透
ソフトバンク新書
798円

食の軍師
著 泉昌之
日本文芸社
620円

 諸葛亮、字は孔明と言えば、もちろん三国志に名高き、軍師の代名詞的存在。でも天才軍師というのは創作された姿で、実際は軍師というより優秀な内政家だったとかなんとか……。

 そんな孔明の真実に、膨大な中国史教養と独特の語り口でもって迫る酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』。タイトルからしてもうひどいですが、ここに出てくる孔明は、臥竜などと自称して三十近くになっても定職に就かず、口を開けば「宇宙」とか「天下」とか大言壮語ばかりというニートみたいなヤツ。我々が親しんだ颯爽たる天才軍師様とはまるで正反対のイメージですが、不思議と説得力のあるこのボンクラ変人孔明が、ヤクザの集団みたいな劉備軍に就職。……出たばかりの最新三巻ではついに赤壁での活躍が描かれます。この機会にイッキ読みを。

 そんな酒見版よりさらにどうしようもない孔明像を描き出したのが本田透『ろくでなし三国志』。三国志の連中なんて全員負け組のろくでなしじゃい、と独自視点で英雄たちをぶった切る。こっちの孔明は、たとえ戦で負けても漢が正統だからオレの勝ち、という脳内勝利主義に邁進し、蜀に築いた孔明王国を守るため、ライバルを次々に蹴落として自己神格化に突き進む腹黒男になっています。こんな孔明は、マジでイヤだ……。

 まあでも真実はどうあれ、やはり人間、一度は、これは孔明の策か!? なんて驚かれるぐらいの計略を描いてみたいもの。そんな孔明かぶれの男が、蜀ならぬ食を舞台に采を振るのが泉昌之『食の軍師』。おでん屋ならハンペン、玉子、ちくわぶで“白三形の陣”とかトンカツ屋なら“豚下三分の計”とか怪しげな食の兵法を披露しながら、粋・通を目指すのですが、結局からまわりして自爆していくグルメマンガ。ああ食の軍師への道は遠い……のですが、前の二冊を読んだあとだと、案外、本当の孔明もこんな感じで失敗続きだったのかも……と思えるから不思議です。

前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』。

※本記事は週刊アスキー9月18・25日号(9月4日発売)の記事を転載したものです。

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