2012年08月20日22時30分

宇宙エレベーター技術競技会JSETEC2012開催 高度は700メートルへ

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 '12年8月1日から5日まで、第4回宇宙エレベーター技術競技会“JSETEC2012(4th Japan Space Elevator Technical & Engineering Competition)”が静岡県富士宮市富士裾野で開催された。

 宇宙エレベーターは、建造物としての“宇宙エレベーター本体”(カーボンナノチューブを用いた“テザー”と呼ばれるケーブル&地上や静止軌道上のステーション)と、その上を移動する“昇降機”(クライマー)の2つで構成される。

 JSETECは地上でクライマーの“ひな型”を制作し、空中につりさげたケーブルを移動する性能をテストする、競技会形式の実証実験だ。ループ状のケーブルを巻きとることで、人や荷物を運ぶ“ケージ”を移動させる既存のエレベーターとは考え方が異なり、宇宙エレベーターではクライマーが自力でテザー上を昇り降りする。

 地上に近い対流圏では、大気の影響を受け、またケーブル全体の振動やテンションが環境によって異なることが予想される機械にとっては過酷な環境だ。そこをクライマー自身が判断しながら自力で移動する“自律型ケーブル昇降ロボット”の製作が競技会の目指すものだ。

JSETEC2012

■1200メートルを目指した今年の競技会
 '09年から開催し、第4回目となる競技会では150、300、600メートルと徐々にケーブルを吊り下げるバルーン高度を上げて年々、競技条件をレベルアップしてきた。

 今年はバルーンの高度を1200メートルに設定。達成できれば、米国の宇宙エレベーター推進団体“Spaceword財団”が開催する宇宙エレベータークライマー競技会”Power Beaming”コンペティションでの1000メートルを超える、世界で最も高い宇宙エレベータークライマー競技会になる予定だった。

JSETEC2012

 しかし、実際にはなかなかそうもいかなかったわけだが……。まずは、さまざまなトラブルと競技条件の中で、参加チームのクライマーがどのような結果を出したのかみてみよう。

●参加した全16チーム(テザーの種類)
阿南高専(ベルト)
神奈川工科大学(ベルト)
神奈川大学江上研究室A~D(ベルト×3、ロープ×1)
神奈川大学SEP(ベルト)
慶応東工有志(ロープ)
The 4th Labratoly(ベルト)
静岡大学SATT(ロープ)
チーム奥澤(ベルト)
チームアクエリアス(ベルト)
日本大学青木研究室A,B(ベルト×1、ロープ×1)
日本大学入江研究室(ロープ)
明星大学山崎研究室(ベルト)

特別参加 ケンブリッジ大学
※テザー(ケーブル)の種類で、“ロープ”、“ベルト”とで競技が分けられている。

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↑昨年から競技会会場となっている静岡県富士宮市富士裾野。大沢扇状地と呼ばれる広大な遊砂地のため、周囲には何もなくて安全。

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↑大バルーンを3つ使用し、対地高度1200メートルの地上最大の宇宙エレベータークライマー競技会になる予定だったが……。

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↑実際には大バルーン×2の競技会となったため、高度を1200メートルまで上げられなかった。

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↑バルーンで吊り下げられたテザー(ケーブル)は、風の影響を受けて不安定。そこをクライマーが昇降する過酷な競技なのだ。

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↑うまくいけば、上空のバルーン目指してテザーを昇って行ける。

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↑ケンブリッジ大学からヒラリー・コステロさんらが特別参加した。イギリスでは気球を利用した気候変動観測システムなどを構想しているとのこと、その前段階としてケーブルダイナミクスを研究するチームが、バルーンに吊り下げられたテザーの挙動や上空の風速、テンションなどを実証しに競技会を訪れた。

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↑こちらはその観測機材。3軸の加速度センサーやケーブル引っ張り強さの記録装置など。

 

■競技条件の厳しいベルト型テザー
 今年の参加チームは、12団体16チーム。大学および高等専門学校13チーム、社会人有志3チームで、このうち2チームが初参加だ。競技は、幅50ミリのアラミド繊維を使用した競技会専用ベルト型テザーと、ダイニーマ製直径11ミリのロープ型テザーの2種類に分かれて行なわれる。

 現在の宇宙エレベーター構想の基本を構成している、元ロスアラモス研究所ブラッスリー・エドワード博士の理論に基づいた幅1000ミリ程度のリボン型カーボンナノチューブテザーを想定している平たいベルト型でスタートした競技会だが、大気中でベルト型のテザーは風の影響を強く受ける。時にはバルーンの浮力で垂直に近い立ち上がりとなり、時には横風を受けて吹き倒されてたるむ。テンションは随所で変化し、数個のローラーでテザーを挟んで押しつけながらモーターの力で昇降するというクライマーの基本構造にとっては、非常にやっかいな“走路”なのだ。ローラーの端に噛みこんだり、堅い繊維がローラー表面をゴリゴリ削り取っていったり、想像以上に破壊的でもある。

 このベルト型テザーで最大の成果を上げたのは、神奈川工科大学チーム。昨年の600メートルを上回るバルーン高度700メートル設定の競技で、ゴールまで無事に上昇、下降してきたのだ。3日目の高度200メートルのテスト走行でスタックが発生したため、競技にあたってやや遠慮がちだったチームだが、制御の効き安定した走行にゴール後には周囲から拍手が起こった。

 クライマーは、将来的には人を載せることも想定した機構だ。高速走行も重要だが、ただしく制御され安定した下降することも評価の対象となる。最後の最後に、テザーが風に吹き流されてクライマーが立木に引っかかってしまったのだが、これは競技条件によるトラブル。スタッフのあたたかい励ましを受け、クライマーは無事にテザーごと引き下ろされてゴールに戻ってきた。

 昨年、昇降スピードを優先し、大容量バッテリーから機体に火災トラブルが発生したという経験を踏まえて、スピードではなく確実な昇降を目指し、かつ安全性を考慮したという神奈川工大チーム。毎秒4メートル(時速14.4キロ)と着実な走行を目指しつつも、競技時間30分の制限はきちんと守って成果を出した。

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↑大会5日目、安定した昇降成績を見せた神奈川工科大学チーム。

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↑700メートルの高度上昇へ。大会新記録をマークした神奈川工科大学。

 他にベルト型テザーへ参戦したのは、競技会開始当初からの参加校でもある神奈川大学チーム。テザーへのローラー押しつけ力を自動調整する機構を組み込んだ制御重視の機体“KSC-VII”、昇降スピードを優先した“KSC-IV”、そして昨年参加したクライマーをそのまま活かした機体の合計3機で臨んだ。

 高度700メートルのバルーン競技にあたり、600メートルの設定昇降を完走したのが、昨年競技会に出場の機体を引き継いだ神奈川大学 江上研究室“KSC-V 改”チーム。競技条件レギュレーションが変わっても安定した昇降を見せ、ゴール手前3センチでぴったり停止して見せた。基本的な昇降性能には安心感がある。新機軸を盛り込んだ他の2機種は、完成までまだ余地がありそうだった。

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↑神大チームクライマー開発歴を引き継ぐ、押しつけ力調整機構搭載機“KSC-VII”

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↑高速型を目指した”KSC-IV”だが、ローラー間のベルトが外れて走行不能に。テザーの環境そのものがクライマーを壊していくことは、実はよくある現象だ。

 神大からは、有志チーム“スペースエレベータープロジェクト”も参加したが、競技3日目のテスト昇降は成らなかった。

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↑テスト走行が上手くいかなかった神大SEPチームに先輩から即ミーティング。とても大切な教育機会である。

 初参加で結果を出したのは、明星大学のチーム。4キロ強と軽量小型の機体で、競技会3日目、200メートルのテスト走行で、競技時間30分のところ15分でテザーへの取りつけ(インストール)から無事に昇降、ゴールするまで約15分という結果を見せた。初参加または経験の少ないチームは、ネジ留めを多用して競技時間を圧迫するためインストールで手間取ったり、または走行に問題ありという例も多数見てきただけに、期待の持てるチームだった。チームは自信をつけて、競技会5日目には700メートル走行にチャレンジ。この時は200~300メートルの上空でスタックし、暗闇の中で発光が見えたと思ったらアンプ周りの火災トラブルを起こしていた。

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↑初参加、小型軽量クライマーで結果を出した明星大学。

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↑赤いプッシュスイッチは、ゴールバンパーに接触すると反転開始するゴール検知だ。“1”とマジックで書いてあるのは進行方向側を表わす。意外とこういう目配りが重要なものだ。

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↑700メートルに挑戦したものの上空スタック発生、火災トラブルを起こした。

 個人チームとして初回競技会から毎年参加しているチーム奥澤は、機体名“momonGa-4”を引き継いで、今年はももんがのイラストをあしらったチームTシャツで参戦した。基礎的な技術力に加え、インストールやテザーの送り出しなど随所への細かい目配りなど、毎回つくり込みが素晴らしく、機能面では高く評価されてきたmomonGa。しかしなぜかスピードや上昇距離では結果が出にくいという……悲運のチームである。

 今回はインストールに新機軸、Androidタブレットを使用し、スライダーによるコントロールを実現した“スマートコンソール”機能が目を引いた。他チームが競技会場にノートPCを持ち込み、不安定な中で走行距離や速度などの設定数値入力を行なっているのに対し、スマートなユーザーインターフェースをつくりミスを防ぐことも社会人としての実力ではないかと思う。

 競技会3日目、200メートルテスト昇降で安定して上昇。目標距離に到達すると、10秒間停止すると下降に転じる、という制御の効いた動作を見せた。ペイロードとして、水入りペットボトル2本、4キロの重量物を確実に運んでみせた。テスト時の性能はよかったのだが、その後の機体トラブルのため、700メートル高度上昇参戦ならず。

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↑テスト走行に挑むmomonGa。シンプルで安定感のある機体に、セルフディスプレーから環境計測用まで各種計測機器。左右にペイロード搭載スペース。

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↑ペイロードを搭載したmomonGa-4。

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↑テスト走行では安定した上昇を見せていたので残念。

 毎年のことだが、競技中の機体トラブルは多い。競技条件によるものもあれば、製作した機体がコンセプトを実現できていない場合も。そうした例を見てみよう。

 大会当初からの参加チームである日本大学青木研究室Bチームは、ベルトテザー1機種で参加。競技会3日目に200メートル強のテスト走行に挑戦。上昇は問題ないと思われたが、下降時の速度が目視でもだいぶ速い。結局、地面に激突するように落下し、機体に取り付けた記録用のロガーの一部を飛散させることとなった。走行時にアンテナ班を用意し、機体の状況を随時確認するというチーム構成で臨んでいる青木研B、高度上昇の結果も見たかったが残念だ。

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↑ベルトテザーに挑戦した日大 青木研Bチーム。

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↑アンテナを用意しリアルタイム計測の準備を整えていたのだが……。

 社会人チームでは3年目となるThe 4th Laboratolyは、クライマー“呑龍”を改良して参戦。テスト走行で上下逆にインストールするというミスがあったものの、200メートルの昇降に挑戦した。カーボン製の軽量、大型の機体、人間ひとりを運べるパワー型ペイロード対応で人目を引く呑龍。ゴール後の走行距離計は下り198.2メートルを記録していたとのことだ。

 安定昇降が可能だったことから、競技会5日目に700メートル昇降にチャレンジした呑龍だが、テザーが立木に引っかかり、機体ごと枝の間でスタックしてしまうというトラブルに見舞われた。そこで驚異的だったのは、そのままテザーを巻きとり、バルーンをやや引き下ろしたハイパワーだ。ちなみに走行距離99.9メートルを記録していた。松の枝の間で出した記録である。

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↑CFRP製軸とカーボン板材を組み合わせた構造のハイパワー大型機体でペイロード最大搭載性能100キロを誇る呑龍。

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↑上昇開始。テスト走行のためゆっくりだが、安定感のある力強い上昇だった。

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↑テザーがほぼ垂直に立ち上がる良いコンディションの中、沈みかけた陽を向こうに昇りゆく呑龍。

 昨年、設計が専門の女性エンジニア率いるチームアクエリアスが彗星のように現われ、時速60キロを叩きだして競技会優勝をさらった。全参加者の羨望のまなざしを浴びた完成度の高い機体を、ロープテザー対応からベルトテザー型に変更して今年は参加した。

 時速100キロが目標の機体は7月16日から製作を開始したという点も驚きだ。“4”を意識したデザインで、ユニット型ペイロード搭載室の数や軽量化を目的とした穴あけ加工は4つを基調にデザインされているのだという。

 結果として、テスト走行時に高速上昇をみせたものの、駆動輪8輪のうち7輪がバーストし煙を吹きながら落下。予備部品がなかったため交換しての競技参加もならず、上昇1回で競技を終了することとなった。まったく、競技会は何が起こるかわからないものだ。

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↑完成したばかり、バランスのとれた美しい機体のチームアクエリアス。

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↑昇降距離、スピードなどの設定はこうしたPC持ち込みによる現場設定が多い。チームアクエリアスは最大時速100キロを叩きだす。

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↑上昇時は高速。しかし、駆動輪がバースト。草むらをかすめ、草を摘んで戻ってきた。今回、草刈りクライマーや伐採クライマー多し。

 昨年から参加の徳島・阿南高専チームは、テザーに取りつける本体からゴンドラ型のペイロード搭載室を吊り下げるという強烈な見た目の機体で参加した。計測機器やカメラなど、ペイロードの水平を保てる、ゴンドラを防水にして収納物を保護できるというコンセプトはおもしろかったものの、走行せず。数回のチャレンジを行なったが、走行結果は得られないまま競技を終了した。ごく個人的な感想をいえば、もし高高度走行に挑戦する場合、ゴンドラ本体を含め落下防止に関しては、見た目上やや不安だ……。

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↑申し訳なくも“おかもち”の俗称が贈られた阿南高専のゴンドラ付属クライマー。テザーの挙動に対しては十分なシミュレーションを重ねて臨んだチームだが、昇降成績は成らずに終わった。

 

■ロープテザーでは高速クライマー対応!?
 ベルトテザーで始まった競技会だが、'10年、カナダのサスカッチュワン大学が参考値としてロープ対応型クライマーで高速走行を見せた。昨年、チームアクエリアスがやはりロープ型テザーで大会最高速を記録するなど、ロープテザーでは速度面で結果を出しやすい。ベルト型より風の影響を受けにくいというメリットもあり、ロープテザーでの競技も同時進行で行なわれるようになった。

 ロープ型クライマーに挑戦し続けている静岡大学 SATTは縁起の良い“うなぎのぼり”4号で「ゴールまで昇る」という強い決意と共に参加した。初日テスト走行時に、ぽろりとギアを落とすというミスがあったものの、以後は300メートルのテスト昇降、競技と共に安定上昇を見せた。機体重量6.3キロと中型、対向式で表面にシリコンを採用した駆動ローラー2個という機体バランスが良かったのか、高速インストール可能な機体は、ロープ競技で700メートルの昇降記録を残している。

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↑昨年、50メートルのテスト昇降にとどまった静大SATTチームだが、今年は高速インストールの可能な洗練された機体に。ロープテザーで700メートル昇降に挑戦し、結果を出した。

 どちらかといえばスピードなどの昇降性能よりも、計測器の性能や安全性、環境への対応などを一貫してクライマーのテーマにしている日本大学青木研究室A。機体名“Uniii”は、全長1.2メートル、重量9.5キロで想定速度は毎秒14メートル(時速50.4キロ)とのことだ。注目ポイントは、クライマーが下降する際にエネルギーを電力から光に変換する“発電ブレーキ”だ。

 宇宙エレベーターのクライマー下降時のエネルギー処理は重要な問題で、ブレーキでエネルギーがすべて熱になってしまったら大問題。回生ブレーキ機構の導入がすでに検討されているが、Uniiiはすでに将来を見据えたクライマーになっている感がある。競技よりはテスト走行としてバルーン高度700メートル時に着実な昇降を見せた。

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↑プレゼンテーションで機体コンセプトを解説中の日大青木研A。発電ブレーキ構想は宇宙機としてのクライマーを見据えた構想に思える。

 参加チームによるクライマー説明会、プレゼンテーションの会場で目を引いた、日本大学入江研究室のクライマー“サジタリウス”は、構造に特徴を持った機体だ。競技会技術評価委員のひとり、日本大学の青木教授に“肉抜きの鬼”とあだ名されたチームメンバーの手による本体は、アーチとトラスを採用した軽量で高強度の本体。それをしなる弓型のバンパーシャフトで保護する構造になっている。バンパーシャフトがしなることで振動を軽減し、衝突時に本体を保護する役目も持っているというのだ。時速100キロにも対応するというスピード型の機体でもある。

 競技会5日目のテスト走行では、安定して上昇したサジタリウスだが、下降時にほぼ自由落下に見えるの状態でゴールへ突っ込み、バンパーがクラッシュ。本体はというと、チームコメントでは軸がややゆがんだと言うものの、持ち堪えたのだ。制御の効かない状態での落下はもちろん安全面で大きな課題だ。しかし、バンパーシャフトが本体を保護するという機体設計を実証してのけた。(身をもって実証しなくてもとは思うが……)。

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↑バンパーシャフトの形状がわかるプレゼンテーション。

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↑走行にあたって機体をロープテザーにインストール。

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↑高速上昇を開始したのだが……ゴールに突っ込んでクラッシュ。バンパーシャフト、半分なくなった。

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↑クラッシュ後、サジタリウスのバッテリーが破損。運営メンバーでバッテリーの専門家から指導を受け、放電などの処理に当たる入江研チーム。随所で行なわれるOJT(?)も競技会の一側面。

 ベルトテザーで結果を出してきた神奈川大学チームだが、昨年からロープ型の競技にも参加している。“KSC-RIII”はリモコン操作の機体のため、電波の届かない距離への走行はできない開発中のクライマーだが、150メートルのテスト昇降に成功した。

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↑ロープ型クライマーでプロポ操作によるテスト昇降に成功した神大Cチーム。

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↑どちらかと言えばロープの方がテザー挙動が安定している。

 今年の初参戦チームのもうひとつ、慶應義塾・東工有志チームによるクライマーは、参加直前に本体を鍛造マグネシウムを採用した軽量高強度タイプに改造してきたという。競技会3日目、数十メートルのテスト走行時には順調に動作したのだが、5日目のテスト走行時にスタートから2~3メートル付近で空転し、走行しないという結果に終わってしまった。

 クライマー降下時のブレーキ機構について、「降下中はブレーキの代わりに、モーターの逆転を利用していると聞いた。減速はもちろん可能だが、スリップが発生し機体への負担は大きいはず」とクライマー開発を知る大会関係者のコメント。実際に昇降するという経験を経て、調整が必要になりそうだ。

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↑ロープテザーに取りつけられる慶應義塾・東工有志チームのクライマー。

 

■バーチカルテザーシステムは1200メートル実証ならず
 バーチカルテザーシステムは今回最大の問題点。結果として、1200メートルの高度を目指したテザーシステムだが実証は失敗した。当初予定では、浮力140キロの大バルーン3つでアンカーロープ、ベルトテザー、ロープテザーを三角錐型になるように係留するという予定だった。これまで起きた最大の問題は横風によるベルトテザーのコンディションで、JSEA大野会長が気球の専門家に意見を仰いだところ「問題は浮力(ヘリウム量のコスト)」だったということだ。

 大会2日目、バルーンに取り付けた火工品が取り外し手順ミスで作動。バルーンに大穴をあけた。火工品は、万が一係留ロープから離れてバルーンが飛んで行ってしまった場合に、安全装置としてガスを抜くためのものなので、火工品が動作したこと自体は“安全装置が動作した”ということ。しかし、大会4日目にはさらに上空でもうひとつのバルーンでも同様のトラブルが発生(正確な原因は調査中。現場では、起爆装置のプラグに取り付けられたチェーンがバルーン本体のロープに絡まって抜いてしまった可能性がある)。

 結果として浮力が足りなくなり、生き残ったバルーンと修復済のものと標識用小バルーンという、当初より小さいシステムで動かざるを得なかった。アンカーロープを競技用テザーに転用し、加えてベルトテザーのみで、吊り下げるケーブル重量を軽減するという対策にも迫られた。本来競技用ではないロープを競技に使用したため、ロープ損傷も起きた。

 最終的に、高度では昨年の600メートルを上回るものの、目標の1200メートルを大きく下回る700メートル上昇が今回の限界となった。米国の競技会では、ヘリコプターで1000メートルケーブルを係留するというシンプルな方式だが、パイロットから安全性問題で拒否されたこともあるという。それに比べれば、損傷しても無人のバルーンだけ、という日本の方式は安全を考慮しているとは言える。しかし、通信機材を始め上空に重量物を係留するという条件での安全性は、トラブルを考慮してもっと練り直す必要がある。

 なにより、宇宙エレベーターのひな型であるはずのテザーシステムが伸びて行かないようでは、10万キロメートルまでの実証、この先待っている“宇宙”での実証に到達できないかもしれない。高度的にはいったん足踏みしてでも、確実なシステム完成を目指すべき、と考えている。

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↑競技4日目、上空でバルーンの火工品が動作、バルーンに穴をあけ、ヘリウムガスが噴出した。2つのバルーンを失うことで、1200メートルのバーチカルテザーシステムの実証は困難に。

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↑現地でバルーンを修復し、実証再開を試みたものの対地高度は最大740メートルに。

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↑テザー損傷トラブルまで発生。

 クライマーの走行は完全に自律型へ。プロポ(リモコン)による操作はローラーなどの状態を試すテストでしかなくなったと言える。低高度バルーンでのテスト走行時に、そもそも上昇・下降できないといったチームはほとんどなかった。押しつけ圧自動制御(神奈川工科大学)、下降時の排熱(日大青木研A)、バンパー構造による本体防御(日大入江研)、鍛造マグネシウムによる機体軽量化、ハイパワーモーターによるペイロード搭載性向上(4th Lab)など、各チーム工夫を凝らして独自の性能を引き出す方向に来ている。

 4年目での経験の蓄積が大きいとも考えられるが、初参加の明星大学チームが軽量小型の機体で結果を出している。“中空を揺れるケーブルを自力で昇降する機構”というあまり例のないロボット製作の課題に対し、機械工学系の学生も社会人有志も課題をクリアする力を見せてきている、というのが競技会開始当初から取材してきた人間の正直な感想だ。今回、競技結果に変更が相次いだため、各チームの正確な走行距離や上昇高度はロガー記録を元に競技会実行委員が解析中だ。間もなく、JSEA 宇宙エレベーター協会のサイトに発表される予定。

 大きな課題となったのは、テザーシステムの完成度だ。今回の失敗から徹底的に問題点を洗い出して次に臨む必要があるだろう。火工品の動作精度ひとつとっても「根本的な考え方はともかく、検討の時間が足りなかった」と関係者コメントがあった。「空中をぶら下がるケーブルを自力でよじ登る機構というものはこれまでなかった」と、昇降機の専門家でJSEA副会長(当時)の青木教授がコメントした初回JSETECから4年。参加チームは確実にその存在しなかった機構を開発し、完成度を上げてきていると思う。学生、社会人有志のその実力に対し、競技機会を提供する意味でも、また何のためにクライマーを開発するのか、という意義のためにも、テザーシステムのさらなる発展を望みたい。

■関連サイト
一般社団法人宇宙エレベーター協会

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