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【私のハマった3冊】明日もちゃんと働くために 安い月給について考えてみる

2012年08月06日 13時00分更新

私のハマった3冊

僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
著 木暮太一
星海社新書
903円

ルポ 賃金差別
著 竹信三恵子
ちくま新書
798円

サッカー選手の正しい売り方
著 小澤一郎
カンゼン
1680円

 給料の安さ。ここ15年、話題にされ続ける問題だ。非正規雇用、ロスジェネ、ブラック企業云々。でも、もともと日本の企業の給料って“明日も同じ仕事をするために必要なぶん”という“必要経費型”の制度であり、キャリアアップしようが資格を身につけようが、そこからは抜け出せないというのが『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか』の主張。というか、これを言っているのは著者と言うよりマルクスだ。

 筆者は、天才的な説明の上手さをもって“剰余価値”のしくみを説明し、さらにマルクスをロバート・キヨサキ(『金持ち父さん貧乏父さん』)に照らし合わせて、“ラットレース”のような給与生活からの脱け出す働き方を説いていく。精神論ではなく、すべては経済学に則っているのが本書の魅力だ。

 とはいえ、いくら“ラットレース”だからといっても、正社員と非正社員、派遣社員や中途採用、パートタイムでは、同じ仕事内容でも、もらえる賃金がまったく違うのは不公平である。

 そんな働く現場で起きている不公平を取り上げたルポルタージュが『ルポ賃金差別』。“競争”の名の下に、下げられていく賃金。その“競争”が同じ条件下でのものなら“格差”として認めるべきでも、端からつけられた差であればそれは“差別”。著者は、日本の給与制度の欺瞞を曝く。この視点も重要。

 だが、この不況の世でも、欧州のクラブに移籍するサッカー選手たちは、何億もの給与をもらい、ときには何十億というマルクスの“価値”をはるかに凌駕する額の移籍金も発生する。

 欧州も経済危機の最中とはいえ、世界から放映権料が入る欧州サッカーは、巨大な成長市場。日本の選手は世界で活躍するようになったが、ビジネスの面では、まだまだ世界に負け続けている。『サッカー選手の正しい売り方』を読めば、移籍のしくみやその市場の読み方がわかる。

 さあ、給料は安くとも明日からもまた働くぞ。

速水健朗
フリー編集者・ライター。主著『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)。NHK『NEWS WEB24』出演中。

※本記事は週刊アスキー7月3日号(6月19日発売)の記事を転載したものです。

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