週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

【私のハマった3冊】新東名高速道路が開通 絶えず流動する都市を振り返る

2012年07月02日 13時00分更新

私のハマった3冊

「奇」の発想
みんな『少年マガジン』が教えてくれた

著 内田 勝
三五館
1890円

明治百年
もうひとつの1968

著 小野俊太郎
青草書房
2625円

安部公房の都市
著 苅部直
講談社
1785円

 4月14日、新東名高速道路が一部区間で開通した。新東名は既存の東名高速道路の機能を補完するべく建設された。東名高速が全通したのは43年前、まさに高度成長の時代だ。先に開通していた名神高速とつながることで日本の大動脈となり、人や物の流れを大きく変えた。

 1970年に『週刊少年マガジン』の発行部数が150万部に達した背景にも、高速道路の開通による流通革命があった。当時の『マガジン』編集長・内田勝の『「奇」の発想』によれば、同誌は流通手段を従来の鉄道貨物からトラック便に変更、これに取次店や書店を通さず文具店や薬局などに直接販売する方法を組み合わせることで、一気に流通網を広げたという。

 小野俊太郎『明治百年』は、こうした流通革命が起きたり、郵便番号制度やポケベルなど新しい情報システムが登場した1968年に焦点を絞る。明治維新から100年を迎えたこの年こそ、現在の社会を規定するさまざまなシステムが生まれたエポックだったというのだ。

 本書では同時代の小説やマンガ、映画、歌謡曲なども多数とりあげられている。安部公房『燃えつきた地図』もそのひとつ。この小説を含め安部は多くの作品で、高度成長により拡大を続ける都市を描いた。団地や高速道路もその象徴として登場する。だが彼が惹かれたのは都市の明るい部分というより、その周縁部で変化から取り残されたゴミ捨て場のような場所だった。苅部直『安部公房の都市』は、そうした場所の記述こそ濃い現実感を放っていると指摘する。

 安部公房にとって都市は絶えず流動してゆくものだった。しかし高度成長期につくられた建物やインフラのなかには、機能の限界や老朽化を迎えながらもいまだに使われ続けているものも多い。それらを生んだ古いシステムともども一新するにはどうすればよいのか。それを考える上でも、いま一度あの時代を振り返る必要があるようだ。

近藤正高
ライター。著書『私鉄探検』『新幹線と日本の半世紀』では、都市の変化と鉄道の関係にも言及しています。

※本記事は週刊アスキー5月1日号(4月17日発売)の記事を転載したものです。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう