プレイステーション3(PS3)専用の地上デジタルレコーダーキット『トルネ(torne)』に続き、ネットワークストレージに3波チューナーを搭載した『ナスネ(nasne)』が4月17日に発表されたのは既にお伝えした通り。
今回はこのナスネの開発陣にお話をうかがう機会を得たのでレポートする。
ネットワークレコーダー&メディアストレージ『nasne(ナスネ)』
●7月19日発売予定
●実売価格 1万6980円
●3波チューナーを1基搭載(地デジ、BS/110度CSデジタル)
●500GBのHDDを内蔵
●有線LAN(1000BASE-T)でネットワーク接続。(無線LANは非搭載)
<特徴>
・LAN外からのリモート予約に対応
・単体で3倍モードでの番組録画機能(ダビング10対応)
・『トルネ』の地デジチューナーと併用して使える
・録画番組をPS3やPS Vita、VAIO、Xperiaなどで観られる
・モバイル機器への書き出し(SD画質)に対応
・メディアサーバー、ファイルサーバーの機能搭載
・DLNA Ver1.5準拠(DTCP-IP対応)
・USB2.0ポートにより、外付けHDDの増設ができる
・同一ネットワーク上にPS3の場合、4台まで接続できる
まとめると、トルネで制御できるデジタルチューナーを搭載したネットワークストレージというものだ。
既に、PS用地上デジタルレコーダーキット『torne』を使用しているユーザーも追加して使えるため、例えば、すでにPS用地上デジタルチューナーを1台使用しているユーザーはナスネを追加すれば、地デジ番組を同時2番組録画できるようになる。もちろん、地デジとBSをひとつずつ録画するといった使い方も可能。
1万6980円という価格も魅力的だ。一般的なNASよりも安価で、さらにデジタルチューナーを搭載しているのを考えれば、そのぶんを含めてもお買い得感はかなり高い。
■ナスネの実機を触ってきたぞ!
取材する部屋に入ると、ナスネの実機が3台も稼働状態に!
見た目がPS3に似ているせいか、写真では大きめのイメージを受けるが、実際には約43(W)x189(D)x136(H)mmと小さい。
HDDは2.5インチを採用しているため普通のNASと比べてもかなりコンパクト。そして、さらに驚いたのが、NASでありながらファンレスで、かつ本体のどこにも廃熱口がないところ。また、取材時に1時間ほど再生やトリックプレイなどのデモをしていただいたが、その後でも本体は人肌よりも少し冷たいぐらいでほとんど熱をもっていなかった。
普通のNASであれば、HDDやCPU周辺からの発熱が多く、何らかの熱対策が必要になるが、ナスネは見た限りこの対策をしなくても問題ないようだ。これだけでもナスネがNASとしてもスゴイのがわかった。
【お話を伺った方】写真左から
ペリフェラル事業部 開発部 2課 課長 河原裕幸氏
商品企画部 ハードウェア企画課 課長 渋谷清人氏
SCE JAPANスタジオ インターナルデベロップメント部 ゲームデザイングループ クリエイティブディレクター 西沢学氏
■コダワリはローカルと同等のネットワーク再生
―シバタ(インタビュアー)
1万6980円というのは、普通のNASと比べても安いですね。何か新しい技術革新など、チャレンジがあったんでしょうか?
―渋谷
新しいチャレンジというわけではありませんが、コストターゲットありきの開発でした。NASをよく知っている方なら価格が安いと思って頂けると思いますが、現行のトルネ(9980円)と比べて「BS/CS対応で7000円も価格が上がった」というイメージをもたれる方もいらっしゃいます。
そのため、搭載する機能を精査し「これだけは搭載したい」というものに絞っています。仕様=コストと言ってもいい製品でしょう。
機能を増やすと製品の価格も上がるので、それはハードウェア担当者とのせめぎ合いでしたね。例えば、録画した番組を2ストリーム流すか4ストリームにするかで必要なプロセッサー性能が違うので価格があがります。隣に座っている河原や資材の担当者が頑張ってくれて実現できました。
↑渋谷氏。torneに続き、nasneのプロジェクトリーダーを務める。 |
―シバタ
コアになっているプロセッサーはどんなものを使われているのでしょうか?
―河原
具体的な話はちょっと……(笑)。どんなものを採用しているかは、実際に製品を見て頂くしかないですが、パワーのあるプロセッサーはそのぶん価格も上がりますし、放熱対策も必要となります。
どんなプロセッサーを採用するかは、“使い勝手を落とさない”ことを大前提としながら、どんな機能を動かすか、どれぐらいパワーが必要かを見極めて気を使った部分ですね。
↑河原氏。nasneの設計・開発を担当。 |
―渋谷
放熱に関しては“ファンレス”はこだわった部分です。ファンというのはかなり微妙なパーツで、静音設計とか考えなければならないので、商品企画としてもファンレスにして欲しいと要望を出しました。ハードウェア担当者も、この部分はこだわった部分です。
―シバタ
では、例えば理論的には24時間365日2ストリームの録画番組を流しても問題ないぐらいの放熱設計になっているということですか?
―渋谷
そうです。NASという製品はWOL(ウエイク・オン・ラン)で立ち上がるものもありますが、起動するまでの時間がかかります。これではテレビと同じような感覚で使えません。ですので、すぐに使えるように常時起動が基本の商品としています。その状態で品質をいかに保持するかという点にこだわって品質テストをしています。
(※ちなみに、ナスネは省電力モード時で1.5ワット。常時起動していても消費電力は低く抑えられている)
■サクサクを超える“サックサク”のチャンネル切り替え
―シバタ
番組視聴のデモを見せて頂けますか?
↑トルネ起動画面。左上にナスネとトルネの空き容量を表示。 |
―西沢
トップ画面でほかのナスネやトルネの空き容量が表示されます。また、チャンネルの切り替えは下部に一覧として出てきます。BS/CSデジタル放送に関してはB-CASカードで契約している番組は黒文字で表示し、契約してない番組は文字がグレーにすることでわかりやすく表示しています。
また、契約していない番組でも無料番組は黒文字で出来ます。番組表から番組録画する際には、地デジチューナーやほかのナスネがあれば、同じ時間帯で複数の録画ができます。その際には、録画するナスネを選ぶこともできます。こだわった点としては、テレビと同じぐらいの速度でチャンネル切り替えができるようにした点です。
↑西沢氏。TVアプリケーション『torne』のデザインを含むディレクションを担当。ゲームクリエーターでゲームデザインやディレクションもこなす。 |
―シバタ
確かにほぼ一瞬でチャンネルが切り替わって、とてもネットワーク越しとは思えないですね。どんな仕組みなんですか?
―渋谷
ナスネ側は録画データを送り出すだけにしていて、デジタル放送の暗号の復号部分などはPS3側でやっています。ナスネはDLNA Ver 1.5に準拠しているので、ほかの端末でも録画した番組を再生できますが、PS3での動作を快適にするために、DLNAの規格に色々な仕様を追加して拡張しています。
―シバタ
なるほど、PS3とナスネで処理の負荷を分散させているんですね。DLNA Ver1.5とのことですが、ソニー以外の端末でも再生は可能でしょうか?
―渋谷氏
他社の端末では再生できるかどうかはそのメーカーのDLNAクライアントの仕様にもよるので、明確には言えません。保証もできませんし。
しかし、ソニーの端末でなければ再生できないということはありませんし、我々はそれを言うつもりもありません。あくまでDLNA Ver 1.5に対応してそれに準じたDTCP-IPに対応していれば、再生できると思います。
―シバタ
録画番組の再生も見せて頂けますか?
―西沢
まず録画番組の選択画面は、ネットワーク内の全てのコンテンツを一元管理してリスト化しています。このリストは、複数のナスネがあれば、ナスネ毎に表示もできますし、ジャンルやチャンネルなどでフィルタリングできます。“コンテンツの置き場所を問わずに再生できる”というのはトルネアプリケーションの共通したマインドです。
番組再生時のトリックプレイの快適さもこだわった点ですね。特に倍速再生は0.1倍刻みに設定できます。また、倍速再生時でも音声を聞くことができますが、人の声をどれだけ聞きやすくするかも気を使った部分です。
↑録画予約画面。シンプルだがわかりやすいインターフェースだ。 |
―シバタ
トリックプレイの反応がとても速いですね。これもネットワーク越しとは思えない速度です。何かこだわった部分があるのでしょうか?
―河原
再生全般におけるバッファー量や、処理の見直しを行ないました。あとは、アプリケーションとの情報のやりとりをいかに効率よくするかですね。
■発売前だけど聞いてみた
―シバタ
最後に実際にやれるかどうかは別にして「ナスネでこれをやりたい」ということはありますか?
―渋谷
いっぱいあります。山のように(笑)。
そもそもナスネは今までのテレビやレコーダーのつくり方を変えられる製品だと思っています。家の中には実はテレビやレコーダーなどテレビチューナーの類が複数あるケースが多いですが、一気に同時に動いていることはないですよね。それを繋げられるのがナスネです。
ナスネではネットワーク経由の再生でありながら、ローカルに近い使い勝手と速度を実現できています。また、ネットワーク内にあるコンテンツをどのデバイスに入っているか意識せずに再生できます。
とはいえ、まだレコーダーとしての要素として拡張しなければならない部分はまだあります。例えばチャプターの打ち方などもそうです。検討しなければならないと思っています。NASの機能やメディアサーバーとしての部分も、パーソナルクラウドストレージとしてどう扱うか考える必要があります。
その点では、いかに家の中にある映像を外からシームレスに見せられるようにするかナスネを通じて提案していきたいですね。
―河原
ハードウェアの面では、より強いアプリケーションの連携を実現できるように、ハードウェアの制約を感じさせないようステップアップしていきたいですね。
―西沢
トルネの視聴アプリをもう少し遊ばせたいですね。もともとゲームをつくっている人間なので、ただテレビを観るだけでなくて、もう少しプラスアルファを入れて遊びの要素を入れていきたい。今はまだ我慢している状況だが、そろそろやっても良いのでないかと感じています。
今回取材をして、開発陣の前向きで柔軟な姿勢に大きな可能性を感じた。今後もナスネを含むPS3のトルネシリーズの進化は止まらないだろう。今までの画質や機能を重視するAVやPCというアプローチから、よりユーザーの操作感を重視するゲームからの流れが新たなホーム映像ネットワークの可能性を広げてくれそうだ。
トルネVer4.0によるナスネからの録画データの再生やトリックプレイは、筆者が見た限り今までネットワーク経由でこれほど高速で快適な操作感は見たことがない。正直、今までのプレーヤーは何だったんだろうという気持ちだ。PS3を使用しているユーザーであれば、1万6980円でこれだけ快適なレコーダーが手に入ると考えるとかなり“買い”な製品。
さらに、PS3でゲームをしていたり、電源を入れて無くてもスタンドアロンで録画してくれるのも大きな魅力。いまから7月19日の発売が楽しみだ。
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