ドワンゴはプレス向けに記者発表会を4月26日に開催し、ニコニコ動画の新バージョン“Zero”における新要素を解説した。
一連のサービスを指す総称を“ニコニコ動画”から“niconico”に変更して、動画、生放送、マイページといった既存のサービスを大幅に改良。音楽ダウンロードサービスの“NicoSound”、評価ボタンの“ニコる”、ユーザー参加型の24時間リクエスト生放送“Nsen”といった新要素を投入する。
サービス開始はいずれも5月1日で、まずは有料のプレミアム会員向けに提供し、追って一般ユーザーも利用できるようになる。Zeroは選択制で、プレミアム会員は、新バージョンに切り替えるか、既存のまま使うかを自分で決められる。Zeroの一連のサービスは、5月1日に先駆けて、28日、29日に幕張メッセにて開催するイベント“ニコニコ超会議”の“ ニコニコ超味来開発”ブースにて体験が可能だ。
今回はドワンゴの川上会長と夏野取締役が解説を担当。テーマは“原点回帰”で、昔のニコ動にあったリアルタイム感を取り戻すことなどを目的に開発した。「Zeroは11番目のバージョンアップになるけど、過去最大の規模。我々としては今回勝負した作品」と川上会長はコメント。
ニコ動の現在のユーザー数は2752万人で、MobageやGREEの3000万ユーザーに匹敵する規模。デイリーのユニークユーザーは300万。プレミアム会員は162万人で、年間約100億円の収入になっている。この収益があるからこそ、ニコニコ本社やニコファーレのような箱物をつくったり、ニコニコ超会議などのイベントを実施できる。現在、プレミアム会員は毎月3万人ほど増えているそうだ。
ユーザーの増加に伴って回線も増強してきた。1年前の今の時期に劇的に増やして、現在では最大400Gbpsの配信が可能になっている。「一企業で400Gbpsの回線を引いているアホなところは我々ぐらいじゃないか。この回線速度やサーバー増強が必要なのが参入障壁」と夏野氏。川上氏は「ニコ動は自前で動画配信サーバーを用意した当初は2Gbpsで、10万ユーザー限定だった」と振り返っていた。
先日週アスでもお伝えした、ニコ動を通じて個人スポンサーを募っていたロンドンオリンピック男子マラソン代表の藤原新選手。見事、2万人のスポンサーが集まったことのお礼も兼ねて幕張メッセまで走って来て、超会議で開かれるライブイベント“ニコニコ超パーティー”に出演する。
■名称を“niconico”に変更し海外進出を意識
ニコ動には、動画、生放送、静画などいろいろなサービスがある。今まではこれらの総称を“ニコニコ動画”と呼んでいたが、サービス数が増えてきたため“niconico”というサービス名に変更した。「ニコ動はこれまでも海外の日本好きの人に結構アクセスされてたのに、ロゴが日本語だったり、会員登録画面が日本語のみだったりと不便だったのでそれを改善した」と川上氏。夏野氏も「基本的にはマルチリンガルの路線をとる」とコメント。
ロゴも“niconico”と新調し、トップページも新しいモノとなる。
■ページを移動せずに動画を次々観られる“ニコニコ動画:Zero”
Zeroで最も大きく変わるのは動画で、“Zero Watch”と名付けられたプレーヤーを導入する。最大の特徴は、動画の下にほかの動画が表示されて、リロードせずに動画をどんどん切り替えて観られるという点。また動画のタグも編集後に即座に変わるようになり、リアルタイム感が全体的に増している。川上氏は「ニコ動はほとんどFlashでつくっていたんですが、Zeroから一部ほかのJavaScriptなどを駆使したものに変更した」と技術面を解説していた。
Zero Watchの画面。動画の左側にはニコニコ市場、右側に投稿されたコメント、下に動画再生リストを配置。スクロールすると、動画選択ウインドーや動画レビューが現われる。
動画の表示サイズを、従来の640×368ドットから最大864×486ドットに拡大した。
動画に付けられたタグを編集すると、リアルタイムで反映される。「昔のニコ動はリアルタイム感が支持されていたが、ユーザーが増えるに従って我々のほうも負荷分散などに注力するようになり、リアルタイム感覚が減ってきた。それを一挙に取り戻そうとしてる。ニコ動はタグでチャットするぐらいに“タグ戦争”が有名。それがリアルタイムにできる」と川上会長。
画面下には、動画再生リストを表示。たとえば、マイリスト(お気に入り)を表示した際は、そのサムネイルがずらっと並び、動画を選んで切り替えられる。テレビをザッピングするような見方がやりやすくなった。
動画再生リスト以外にも、ポップアップで表示できる動画選択ウインドーを用意する。検索結果や同じ作者の動画などを、同じ動画からまったく移動せずに探せる。
そのほか、動画レビュー機能も追加した。川上会長は「ニコ動は今まで知らない人どうしがコメントするゆるやかなつながりだったが、実際には外部サービスで動画に対してコメントされていた。ただTwitterではそうしたコメントが消えてしまうので、ニコ動で補完したほうが便利だろうということで導入してみた」と補足する。
■今おもしろい番組がすぐにわかる! ニコニコ生放送:Zero
動画に加えて、ニコニコ生放送もがらっと変わっている。こちらもリアルタイム感がキーワードで、ランキングを大幅に変更したり、Recent機能を追加した。
“Recent”機能は、現在ユーザーが放送している番組の一覧画面。こちらも各番組に投稿されたコメントをリアルタイムで表示してくれるのが特徴だ。川上会長は「現在、同時に6000ぐらいの番組を放送している。それを一覧表示するとひとつのコメントも付かないままどれがおもしろいのかわからない状態になってしまう。だからRecent機能を導入した。これを実現するために、サーバーの増強やプログラムの改善などに力を入れた。地味だけど非常にたいへんで、非常に便利な機能」と解説していた。
生放送の画面サイズも810×456ドットに拡大する。従来のサイズにも変更可能。
画面の随所に切り替えボタンを用意することで、すぐにほかの番組に切り替えられるようになった。マイナー生主(生放送の提供者)にとってはちょっと辛い機能!?
生放送のランキングもテコ入れしている。Recent機能がこちらも盛り込まれて、投稿したコメントがリアルタイムに反映されるようになった。1分ごとにコメントしている視聴者数を数値化してくれる。
ランキングに入ると、その番組にもリアルタイムで通知される。これは生主も観ている側も盛り上がること間違いなし!
ユーザー生放送における映像と音声のビットレートを384kbpsから最大480kbpsに引き上げた。ただし、混雑する時間帯をのぞく、2~19時30分という時間帯に限られる。
ニコ動で先行導入していたNG共有機能も生放送に適用。観ている側がNGと思ったコメントを最初から非表示にしてくれる。
■押す気持ちよさにこだわった “ニコる”ボタン
“ニコる”は、Facebookの“いいね!”に相当する評価ボタンだ。おもしろい動画やコメント、タグ、ニコニコ市場の商品、ニコレポなどで“ニコる”ボタンを押せば……。
誰がニコったかは、投稿者もマイページで確認できる。より多くの笑顔を生み出したことが、つくる側のモチベーションにつながるはず。ちなみにボタンを押すことに関して、生理的な快感を追い求めたそうだ。
■動画、生放送、静画を統合した新生マイページ
ユーザーの投稿した動画やマイリスト、視聴履歴などを表示するマイリストも進化。今まで動画、生放送、静画と別々のページで用意していたが、Zeroを機会にひとつに統合。
お気に入りをリストで分類できる機能も用意。ユーザー、コミュニティー、チャンネルを混ぜてリスト化することが可能だ。
■ニコ動の音楽をスマホで聴ける革新的サービス“NicoSound”
動画内のから音楽をだけをダウンロードできる“NicoSound”は、発表会でプレス陣から大きく注目を集めていた機能だ。投稿者が許可すれば、動画の音声部分をパソコンやAndroidのブラウザーから無料でダウンロードできる。音声形式はAACでデジタル著作権管理(DRM)はなし。iPhoneやiPadでは、パソコンからダウンロードして、iTunesを使って転送することで再生可能だ。
このNicoSoundのために、ドワンゴは日本音楽著作権協会(JASRAC)と新たなライセンス契約を結んだ。今までネットでは楽曲をダウンロードするサービスの場合、1曲ごとに使用料を払うライセンス形態しかなかったため、費用がかかりすぎてこの種のサービスが成り立ちにくかった。
ニコ動はダウンロードではなくストリーミング配信なので、事業収入から一定の割合を払う“包括契約”をJASRACと結んで、ユーザーが二次創作した作品などの使用料を払って権利面をクリアーにしてきたが、Nicosoundではこの包括契約を拡張して、ダウンロードも含められるようにしている。しかもダウンロードされたものがJASRAC登録曲であれば、使用料が投稿者に還元される。
導入した理由について、夏野氏は「ニコ動で初めて知った曲をスマホで聞きたいという需要に応えられてなかったので、応えましょうということ」と語る。川上氏は、「現状、いろいろなツールやアングラなサイトを使って、YouTubeやニコ動に投稿された楽曲がフリーでダウンロードされている状況がある。この状態は正常じゃない。でもユーザーのニーズがあるというのなら、ちゃんと権利処理をしてダウンロードできるようにするというのがスタート。いちばん最初は無料で始めるけど、将来的にはダウンロード販売にも対応していく」と、意欲を見せた。
■もう作業用BGMには困らない!? 音楽かけっぱなし生放送“Nsen”
VOCALOID、ニコニコインディーズ、歌ってみた、演奏してみた、東方、PV、蛍の光、オールジャンルという8つの専門チャンネルを用意。独自にプログラムされた動画紹介コーナーと、ユーザーからのリクエストコーナーを、30分ごと交互に24時間放送する。要するに“ニコ動版Usen”という……。
動画紹介コーナーは、新着や殿堂入りなど4つの切り口で紹介する。特にニコ動を観ようと思ってない人でも、作業用BGM代わりに流して、おもしろそうな曲を見つけたら楽曲にジャンプして聞くという使い方が可能。
リクエストコーナーでは、いたずらをするユーザー対策としてスキップ機能を用意。スキップが多いと次の曲に進む。
■夏野氏の悲願達成 iPadアプリが5月1日に登場
夏野氏が以前から開発陣に口を酸っぱくしていってたiPadアプリが5月1日にようやくリリース。iPadに最適な操作性を実現したという。
■BRAVIAとVIERAがニコ動に対応
大手家電メーカーのうちソニーが“BRAVIA”、パナソニックが“VIERA”でニコ動対応テレビをリリースする予定があると発表した。両者とも動画対応で、VIERAのみ生放送も見られるという。ニコニコ超会議の“ニコニコ超未来開発”ブースにて実機を展示するそうなので、会場を訪れる人は要チェックだ。
■関連サイト
ニコニコ超会議サイト
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1,500円
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