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メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ【笠原一輝氏寄稿】

2012年03月22日 22時34分更新

 NVIDIAのノートPC向け最新GPU『GeForce 600M』シリーズで特に注目なのは、ミドルレンジの『GeForce GT660M/650M/640M/640M LE』の4製品だ。これらは、デスクトップPC向けとして発表された『GeForce GTX680』で採用されている新アーキテクチャの“Kepler”に基づいた製品である。

 KeplerベースのGeForce 600Mの各製品は、従来製品の2倍のスペックを備えているが、今回のGeForce 600Mシリーズではそれを性能向上方向には使わず、消費電力を抑えることに利用している。つまり、従来世代と同じ性能を実現しながら、消費電力は半分になるということを実現することで、インテルが提唱するウルトラブックのような薄型ノートPCにも、単体GPUの搭載率を上げることを目指している。

●性能が向上した内蔵GPUが登場しても、単体GPUへのニーズは高まっている

 ノートPCには、CPUに内蔵されたGPUだけが採用されているのが一般的だろう。インテル製CPUなら『インテルHDグラフィックス』、AMDなら『RADEON HD6520G』などだ。というのも、ノートPCはデスクトップPCとは異なり本体が小さく、熱設計(半導体の発熱量などを考慮しながらシャシーの放熱設計をすること)に注意しなければならないため、追加で数十Wもの電力を食う単体GPUの搭載は見送られることが少なくないからだ。

 しかし、では内蔵GPUが十分な性能をもっているかと言えば、それは“イエス”でもあり“ノー”でもある。というのも、仮にユーザーがカジュアルゲームしかやらず、GPUで演算されるようなアプリケーションを使わないのであれば、おそらく内蔵GPUで不満はないだろう(つまり“イエス”だ)。

 しかし、本格的な3Dゲームをやる場合などには、ゲーム自体がNVIDIAやAMDのGPUに最適化されている場合が多く、内蔵GPUでは満足できる性能を得ることができない場合がある。また、現行のインテルHDグラフィックスは“OpenCL”にすら対応しておらず、いわゆるGPGPU的な使い方はできないのだ。そうしたことに不満を感じるユーザーにとっては“ノー”が答えになるだろう。

メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ

内蔵GPUではプレーできないハイエンド3Dゲームでも、単体GPUがあればプレー可能だ。

 実際、NVIDIAでノートPC向けGPUを統括する、ノートブックPCビジネス 本部長 レネ・ハス氏は「インテルがサンディブリッジを市場に投入した後でも、外付けGPUのニーズはむしろ高まっており、我々は従来よりも多くのデザインウイン(製品として採用)を獲得した」と述べ、従来の内蔵GPUよりも3D描画性能が向上したといわれているサンディブリッジが登場した後でも、単体型GPUへのニーズはむしろ高まっているのだと述べている。

メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ

サンディブリッジ以後、ノートPC向けのNVIDIA GPUとしての市場シェアは向上している。

メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ

多くのOEMメーカーでNVIDIAの単体GPUがノートPCに搭載されている。

●開発コードネーム“GK107”のKepler版GeForce 600M

 同じ600Mシリーズでも新アーキテクチャとなるKeplerベースの製品と従来世代のFermiベースの製品が混在している。以下の表は、GeForce 600Mシリーズに用意されているSKU(Stock Keeping Unit、商品単位)を表にしたものだ。

メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ

 最上位のGeForce GTX675MとGTX670M、そしてGeForce GT640M LE以下のSKUに関してはFermiベースの製品となっており、いわゆる“リネーム版”となる製品だ。ノートPC向けのGPUでは、最近は旧世代の製品と新世代の製品が混じることが普通になっており、AMDの『RADEON HD7000M』シリーズでも同様だ。

 ただし、RADEON HD7000Mシリーズでは上位が新コアで下位は旧コアと棲み分けられているが、NVIDIAでは上位の2つと下位が旧コアとなっており、ややわかりにくい感じがするだろう。

 こうした構成になっているのは、今回のGeForce 600Mシリーズ発表にあたり、NVIDIAは手持ちのカードを全部切っていないことが大きく影響している。NVIDIAはKepler世代のGPUとして、“GK104”(デスクトップPC用GeForce GTX680として発表済み)、“GK106”と“GK107”(GeForce GTX660Mなど)という3つのコアを持っているが、今回GK106に関しては発表していない。NVIDIAのコードネームでは3桁目の数字が若いほうがより性能が高いGPUであることを意味しており、仮にGK106に基づいた製品が今後登場した場合には、現在Fermi世代になっている上位2つを置き換えると考えることができる。

●同じ性能であれば従来製品の半分のTDPを実現

 NVIDIAによれば、KeplerベースのGeForce 600Mシリーズは、性能では従来世代のGeForce 500Mシリーズに比べて2倍の性能を持っているのだという。つまり、例えば従来のGeForce 500Mシリーズが同じ性能を35Wで実現したのであれば、GeForce 600Mシリーズを利用した場合には同じ性能を17Wの消費電力で実現できるということだ。

メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ

GeForce 600Mシリーズは従来製品に比べて、消費電力あたり2倍の性能を備えている。

 ただし、ノートPC向けのGPUというのは、クロック周波数やTDPは一定ではない。同じGPUであっても、フルパワーの35Wで動くようなクロックに実装されているノートPCもあれば、17Wで動くようなクロックに設定されている製品もある。つまり、より大きなサイズのノートPCに実装する場合には、熱設計的に余裕があるので35Wになる高クロックで実装し、ウルトラブックのような薄型ノートPCに実装する場合には17Wになるようにやや低めなクロックに抑える、という実装が可能なのだ。このあたりのチョイスはOEMベンダーに任されているのが現状であるため、NVIDIAは製品ごとのTDPを発表していない。

メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ

GeForce GT640MとGeForce GT540M、GeForce GT620MとGeForce GT520Mの比較。いずれも2倍の性能を実現している。

メインストリームのGPUをウルトラブックにもたらす『GeForce 600M』シリーズ

2倍の性能をもつということは、同じ性能でよければ消費電力が1/2であるということを意味するので、ノートPC設計の自由度があがりウルトラブックなどへの実装が可能になる。

 なお、NVIDIAは具体的には明らかにしていないが、KeplerベースのGeForce 600Mシリーズにはハードウェアエンコーダーエンジンが内蔵しているものとみられている。GK107チップそのものにはこの機能が実装されているので、ノートPC向けバージョンでも機能そのものは実装されていると考えられる。ただし、GeForce 600Mシリーズを搭載した製品は、ほとんどがインテルの内蔵GPUと自動で切り換える“Optimusテクノロジー”の機能を搭載しているため、サンディブリッジに搭載されているハードウェアエンコーダー『クイック・シンク・ビデオ(QCV)』も利用できる。

●搭載製品を目にするのは“Ivy Bridge”の発表後?

 NVIDIAによれば、すでに海外でAcerから販売されている『Acer Timeline Ultra M3』と呼ばれるサンディブリッジ搭載ウルトラブックに、GeForce GT640Mが搭載されているという。また、すでに多くのメーカーに採用されたとのことだが、現時点ではどのような製品に搭載されているかは明らかにできないという。

 おそらく、未発表のIvy Bridgeに基づいている製品だからだろう。つまり、GeForce 600Mシリーズを搭載した製品が多数登場することになるのは、インテルがIvy Bridgeを発表した後、ということだ。なお、OEMメーカー筋の情報によれば、Ivy Bridgeを搭載した製品を、4月の末にクアッドコアを、6月の上旬にデュアルコアを発表する予定であるとされており、そのタイミングでGeForce 600Mシリーズを搭載したした製品も多数登場することになりそうだ。

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