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田原総一朗氏と佐々木俊尚氏、ソーシャルメディアで激論

2012年02月14日 09時30分更新

 2009年2月にニューヨークでスタートしたソーシャルメディアに関する世界最大規模のイベント『SOCIAL MEDIA WEEK』。今回は2月13日~17日まで世界12都市で同時に開催されるが、7回目となる今回初めて、東京が会場に含まれることになった。

 その記念すべき東京の初日、田原総一朗と佐々木俊尚という新旧2人の人気ジャーナリストによる『世界の変化とソーシャル・メディア』と題された基調対論が行われた。

SOCIAL MEDIA WEEK

 佐々木氏に薦められてTwitterを始めたという田原氏。両氏とも見知らぬ人から喧嘩を売られがちだが、数々の武勇伝で知られる佐々木氏はもちろん田原氏のほうも「ブロックする人も多いけど僕は批判されるのが大好き」と意に介さない。それどころかTwitterのおかげで若い人からも握手を求められるようになったとご機嫌だ。

スマートTVがテレビを変える?

 対論はまず旧来のメディア批判から始まった。
 かつては東京12チャンネル(現在はテレビ東京)のディレクターとして過激な番組を作っていた田原氏は「今のテレビ局は、震災時に遺体を撮らなかったことでもわかるようにコンプライアンスという名の自己規制がすごい。ニュースなんかまったくおもしろくない」と苦言を呈した。「当時の12チャンネルはNHKやTBSのできないものだけをやっていたテレビ番外地だったが、今のインターネットは当時の状況に似ているかもしれない」。

 また、「今後普及が予想されるインターネットとシームレスにつながったスマートテレビに注目している」と語り、「ニコニコ動画やYoutubeがテレビで見えるようになると、規制の枠を外れたコンテンツがどんどん出てくるはず。それに刺激されてテレビのほうも活性化されるといいなと思っている」と期待を口にした。

 佐々木氏も「ニコニコ動画では、動画自体はつまらなくても、視聴者による『美人キターーーーー』といったコメントが入ることでまったく別のおもしろいコンテンツになる。つまりソーシャルのやりとり自体がコンテンツとなっている。スマートテレビになるとそれが合体し、新しいエネルギーをもった番組が作られる可能性がある」と予想を語った。

SOCIAL MEDIA WEEK

新聞記者どうしの議論を可視化することがジャーナリズム

 次に佐々木氏の出身である新聞について。
 会場で新聞をとってない人に挙手を求めたところ半分以上が手を挙げ、2人とも驚きを見せたあと、その理由について田原氏は「新聞で重要視されるのはいまだに警察や検察と癒着した記者が抜いてくる特ダネ。それ以外は何らかの発表があったものをそのまま記事にしたものばかりで、発表を元に論じたり分析したりするものはほとんどない」と指摘。

 佐々木氏も「考察に関しては素晴らしい記事がネット上にあふれている。あえて新聞を読む人は少なくなるのでは」と同意した。

 また、最近新聞社も記者の名前でTwitterアカウントをもち情報発信するようになったことについて「これまで新聞記者は公の場では個人ではなく会社としての意見を求められてきたが、ソーシャルメディアによって社論とは関係なく記者個人の意見を述べることができるようになった。新聞社内でも当然論争はある。これからは社内の議論を見せるそれ自体がジャーナリズムとなるだろう」と田原氏は語った。

日本の若者は戦う敵がいない

「世界ではTwitterやFacebookなどソーシャルメディアは政治にも影響が強く、中東のように独裁政権が倒されたり、ウォール街でデモが起こったりしているが、日本ではあまり影響力が感じられない」という田原氏の問いかけに対し、佐々木氏は「これらの出来事は必ずしもソーシャルメディアがあったから起こったのではない。あくまでツールとして使われたにすぎず、政府に強い不満をもった若者の数が多かったのが原因」と指摘。田原氏も「ロシア帝政が倒されたときはツールとして張り紙が使われた」と同意した。

 また、田原氏は「今の日本はそこまで不平等じゃない。僕が朝まで生テレビを始めた1987年の最初のタイトルは『中曽根内閣打倒』だった。でも今『野田内閣打倒』としてもタイトルにならない。いくら東電けしからん、政府けしからんと言っても今や彼らにそんなに力はない。つまり日本の若者は戦う敵がいない。むしろそっちのほうが悩みが深い」と日本の現状について指摘。

 佐々木氏も「原発の問題も東電や政府をたたいていれば解決する話ではない。最近、尾崎豊を引き合いに出した社説がたたかれていたが、権力に反抗していればロックだぜという時代は終わった。いまやらなきゃいけないのは自分たちで社会を再設計すること。その中でソーシャルメディアが政治にどう接続していくかが問題」と自説を披露した。

SOCIAL MEDIA WEEK

誰でもなにかの専門家

 では現代の日本でソーシャルメディアが担う役割とはなんだろうか。
「Twitterは見る人によってぜんぜん違うセカイが見える、つまり集合無意識を可視化する装置。震災からもうすぐ1年が経つが、これまでは混乱のさなかにあり、皆どうしていいかわからない状態だった。だが、年が明けたあたりから雰囲気が変わってきた。社会をきちんと作り直さなきゃと思っている人が増えてきた感がある」。

 また、「少し前までのネット世論は単なるマスコミ嫌いやネット右翼といった声が大きい人の罵詈雑言めいた意見ばかりが見えていたが、実はノイジーなマイノリティーの意見にすぎない。ソーシャルメディア以降はTwitterのRTやfacebookのいいね!などによって、サイレントマジョリティーの声、罵倒ではない善意の意見が見えやすくなっている」と佐々木氏は指摘する。

 田原氏も「今の時代、なにがおもしろいかというと、すべてが可視化され隠すことができないこと」と述べ、利点については、同意しつつも「もちろんそれはプラスだけではなく、情報の正確さが担保されない、プライバシーが犠牲になるなど、マイナスの側面ももっている。ネットだけでは成り立たない。良質な記事を書いたり、重要な告発を取材したりする人はこれからも必要」と釘を差した。

 対して佐々木氏は「コンビニで働いている人はコンビニ労働の専門家、だれでもなにか知見をもっている。自分の中の専門性を分け合うことができるのがソーシャルメディアの特徴。みんながそれを広く公開することによって知識が共有できるようになり、最終的に社会の知が増えていくのではないか」と希望を語った。

SOCIAL MEDIA WEEK

質疑応答タイム

 最後は質疑応答となった。
「これからソーシャルメディアが担う役割とは?」という質問に対し、佐々木氏は「アメリカではFacebookの普及率が60%を越え、遠距離にいる親戚どうしが簡単に交流できるため、擬似的にだが大家族制が復活していると言われる。また、崩壊したと言われる地域社会などの中間共同体も、ソーシャルメディアによってインターネット上で、より緩やかな共同体を作るという形で復活してきている。これからのソーシャルメディアはつながりのインフラとしての役割を担っていくのではないか」との予想を示した。

 また「メディアが権力だった時代と異なり、ソーシャルメディアは個人も発信ができるようになった。気をつけなければならないことは?」という質問に対し、佐々木氏は「なんでも可視化されるソーシャルメディアで密室の情報操作は不可能になり、今後は会社ではなく個人としての信頼しかなくなってくる。いかに自分自身の信頼を担保できるようセルフプロデュースしていくか、そこを失敗すると当人はもちろん組織やメディアの信頼もなくなってしまう」と、フリージャーナリストとしての経験に裏打ちされた意見を述べた。

  なお、『SOCIAL MEDIA WEEK TOKYO』では金曜日まで約50のセッションが組まれており、斉藤徹氏(ループス・コミュニケーションズ)、鈴木寛氏(参議院議員)、津田大介氏(ジャーナリスト)、笠原健治氏(ミクシィ)などの登壇が予定されている。

■関連サイト
SOCIAL MEDIA WEEK TOKYO

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