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手のひらサイズの人工衛星を宇宙空間にプイッとするJAXAの新技術

2012年01月27日 17時00分更新

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は1月25日、衛星放出機構“J-SSOD(JEM Small Satellite Orbital Deployer)”を筑波宇宙センターで公開した。

 説明してくれたのは、今年6月ごろから国際宇宙ステーションISSの長期滞在クルーとなる日本人宇宙飛行士、星出彰彦さん。ISS滞在期間中に、エアロック機能とロボットアームを使って船外作業ができる日本の実験棟 “きぼう”で、超小型人工衛星“キューブサット”を宇宙に放出する『小型衛星放出 技術実証ミッション』を行なう予定だが、その際に使われるシステムが“J-SSOD”だ。

これでプイッとします
J-SSOD
↑JAXA 筑波宇宙センターの衛星試験棟で公開された衛星放出機構『J-SSOD』。クリーンルームで白衣を着て説明にあたるのは、宇宙飛行士の星出彰彦さん(右)。左手に持っているのが実寸の超小型衛星(ダミー)。ちいさい!

 ちなみに超小型人工衛星“キューブサット”とは、一辺10センチメートルの衛星のこと。

 静止軌道で10年以上活躍する通信・放送衛星や、測位衛星『みちびき』、宇宙探査目的の『はやぶさ』、『あかつき』といった大がかりな人工衛星・探査機は、開発に何年もの歳月と数百億円規模のコストがかかる。それに比べて、大体数ヵ月~1年程度の短期間ミッションを目的とした超小型衛星“キューブサット”は、機能はシンプルだが数千万円程度のコストから開発・打ち上げができるのだ。そのため、東京大学、東京工業大学が開発した初代『XI-IV』、『Cute-I』を皮切りに、大学や高等専門学校、民間のベンチャー企業などが鋭意、開発を進めている。

 衛星放出システム“J-SSOD”は、その“キューブサット”を収納・排出するシステム。ケースを2つ備え、それぞれに10センチメートル角(1U)のキューブサットが3機、または10×10×30センチメートル(3U)の衛星1機、合計最大6機を収納可能だ。

ていねいに解説してくれる星出さん
J-SSOD
↑衛星搭載ケース側面の分離機構を解説。バネのある衛星搭載ケースに衛星をおさめ、軌道上に放出する。ケース前面のロックが押されると、バネで衛星が押されてレールに沿って滑りだすしくみ。

“J-SSOD”+“キューブサット”は、国際宇宙ステーション補給機『こうのとり(HTV)3号機』に搭載されて打ち上げられる。緩衝材でしっかりくるみ、補給機用のソフトバッグに入れて運ぶので、いわば荷物のひとつのようなもの。これまでこういった小型衛星は大型衛星打ち上げ時のロケットの空き重量を利用し、相乗りするカタチで打ち上げられていたが、打ち上げ時に過酷な震動やロケットから分離する際の耐衝撃設計を必要としていた。同時に、主衛星のミッションに影響を及ぼさないよう、厳しい安全管理を求められていた。今回は補給用のアイテムといっしょにしっかり梱包して運ぶので、打ち上げ時の環境はそこまで苛酷にならないという利点がある。また、ISSから軌道にのせる直前に、必要ならば宇宙飛行士によって最終チェックができるのが最大のメリットだ。

 今後は日本のISS輸送機 HTVだけでなくヨーロッパのATV、ロシアのプログレス、アメリカのドラゴン補給船など、ほかのISS輸送機も利用できるようになるので、ISSとHTV こうのとり3号機を利用する今回の技術実証がうまくいけば、超小型衛星の打ち上げの機会も増えるというわけ。

 さて。“J-SSOD”がHTV3号機によってISSに運ばれた後、実際に超小型衛星を宇宙へと放出するしくみはこうだ。

 アダプター(台)に乗せられた“キューブサット”を、ISS日本実験棟“きぼう”船内からエアロックスライドテーブルに移動。エアロックを閉めて減圧し、船外へとアダプタを押し出したら、次にロボットアームを使って放出する方向へアダプタを向け、ISSの後方45度以下の方向へ、秒速1.6メートルで放出! 超小型衛星はISSの後ろ、やや低い軌道を、ISSを追いかけるように周回することになる。

ロボットアームでJ-SSODをつかむ
J-SSOD
↑宇宙空間でISS実験棟“きぼう”に取り付けられたロボットアーム(手前)で、船外に押し出されたJ-SSODをつかむイメージ。
(C) 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 「きぼうよりロボットアームを使った衛星放出イメージ映像」より抜粋
ロボットアームの先端で掴んで船外で操作
J-SSOD
↑星出さんが指さす部分から、ロボットアームを通じて電力を供給する。
バネで衛星をバシューンと押し出す
J-SSOD
↑ケースからISSの後方45度以下の方向へ、押し出される超小型衛星。
(C) 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 「きぼうよりロボットアームを使った衛星放出イメージ映像」より抜粋
衛星を軌道に乗せる
J-SSOD
↑万が一、ISSに衝突するようなことがあってはいけないので、軌道を一周してきたときには、ISSを中心とする半径200mの球の中には入れられようにするといった安全管理が求められている。また、衛星放出から30分経過するまで電波などを発信しない、25年以内に大気圏突入するといったルールも。
(C) 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 「きぼうよりロボットアームを使った衛星放出イメージ映像」より抜粋

 そしてその技術実証を行なうのは、2008年に日本人宇宙飛行士として初めてISSのロボットアームを操作し、実験棟 “きぼう”の組み立てを行なった、頼もしい宇宙エンジニア、星出彰彦さん。

ブルースーツ姿で記者会見に現われた星出彰彦さん
J-SSOD
↑エンジニアとして、小型衛星放出ミッションなどについてISSから解説、発信していければとのこと。

 初めてのJ-SSOD技術実証に搭載される衛星として、昨年公募で選ばれたのは、日本の超小型衛星3機。また、NASA提供の2機も今回の技術実証に加わる。

 和歌山大学/東北大学が共同で開発した『RAIKO』は、2Uサイズで魚眼カメラによる地球の撮像、人工衛星の姿勢を決めるスターセンサーの宇宙実証、衛星から膜を展開して軌道を下げ、スペースデブリ化を防ぐ実験、高速データ通信など盛りだくさんの7ミッションを予定している。

『RAIKO』
J-SSOD
↑RAIKOとは、雷神の持つ太鼓“雷鼓”を意味する。

“にわか衛星”の愛称をもつ福岡工業大学の『FITSAT-1』は1Uサイズで、地球を撮影したVGAサイズの画像を6秒で高速送信するミッションを行なう。また高出力LEDによる通信実験も予定しており、地上からもその光が見えるとか。

『FITSAT-1』
J-SSOD
↑地球を撮影した映像を高速で送信する機器の実証実験。

 明星電気の『WE WISH』は1Uサイズ。GPSの電波を利用する高層気象観測装置“GPSゾンデ”技術を使った地球環境調査をコンセプトに、小型衛星で取得したデータの利用促進、超小型熱赤外線カメラの技術実証を予定している。
 

 J-SSODの宇宙空間での実験が成功すれば、その後はキューブサットをISSに輸送すればいいだけ。今後は日本の輸送機 HTVだけでなくヨーロッパのATV、ロシアのプログレス、アメリカのドラゴン補給船など他国のISS輸送機も相乗り利用できるようになるため、打ち上げの機会も増えるだろう。

 日本のものづくり技術を高め、新しい宇宙利用の分野を開拓するということで注目されている小型衛星開発。ISSと輸送機を利用した軌道実証の機会が増え、積極的な開発が進むことを願いたい。

ISS実験棟“きぼう”
J-SSOD
(C)NASA

■関連サイト
JAXA|宇宙航空研究開発機構
NASA
WNI衛星プロジェクト

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