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【山根康宏氏に訊く】LTE時代、海外ではデータ定額プランが変わりつつある。日本のデータ定額は今後どうなる?

2011年11月16日 18時00分更新

 欧米のキャリアがデータ定額料金の廃止の動きを見せている。きっかけはスマートフォンの爆発的な普及だ。これまで各国のキャリアはフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行を促すために、スマートフォン向けのデータ定額プランを提供してきた。従量制では課金が怖くて利用を控えていた一般的な消費者も、今ではスマートフォンを買ってFacebookやTwitterなどのソーシャルサービスを気軽に利用するようになっている。大手調査会社ガートナーの調査によれば、今年第2四半期(4~6月)のスマートフォン全出荷台数は1億770万台となり、前年同期比で約160%の増加。携帯電話全体に占めるスマートフォンの販売数も約25%に達している。

 だがスマートフォンの急激な普及は爆発的なデータトラフィックを生みだしている。スマートフォンのOSやアプリも今やネットワークへの常時アクセスを行なうものが多い。スマートフォン利用者がデータ定額料金に加入することで、ここ数年キャリアの収益は大幅に増加したが、今ではインフラの増強がそれに追いつけない状況なのだ。アメリカでは昨年iPhone販売キャリアでもあるAT&Tがスマートフォン向けのデータ定額料金を廃止、最大でかけ放題になる音声プランと、超過ぶんは従量制となる200MB/2GB/4GBのデータプランの組み合わせに変更した。iPhoneは定額で自由に使い放題できるというこれまでの“常識”が覆されたことはアメリカのスマートフォンユーザーに大きな衝撃を与えたが、AT&Tに続きシェア1位のVerizoneも定額廃止に追従。ヨーロッパでもイギリスのO2などが定額廃止に動いているなど“定額廃止”の動きがじわじわと始まっている

 一方、低料金でデータ定額利用ができるアジアでもいくつかの動きが見られる。韓国ではLTE開始に合わせてパッケージ制に変更。基本料金で利用できる無料ぶんを使い切った後は従量課金となる。韓国では、3Gの定額プラン加入の2年契約でスマートフォンが最大無料で購入できるなど、各キャリアはデータ定額をスマートフォン拡販の武器にしていただけに、LTE開始による定額廃止は大きな方向転換だ。キャリア側は一部のヘビートラフィックユーザーが回線を占有していることを問題とし“公正利用・公正負担”を訴えることで定額制から従量制への移行をアピールしている。

 では今後、データ料金の定額廃止は主流の動きとなってくのだろうか? 前述した韓国では、実は3つのキャリアが国内にくまなくWi-Fiホットスポットも設置している。ソウルでは地下鉄の駅構内だけではなく車両の中にもWi-Fiルーターが設置されており、地下鉄で移動中は3G回線よりもWi-Fiのほうが高速というケースも多い。Wi-Fiの料金は定額で、スマートフォンプランなら無料で利用できる。キャリアによるWi-Fiサービスの提供は世界中で広がっており、今後は携帯回線のシームレスな補佐回線としてのWi-Fiの提供がメジャーな動きとして進んでいくようだ。データ定額サービスがなく、毎月5GB以上を利用すると翌月までデータ回線が利用停止になる中国でも、各キャリアはWi-Fiサービスは定額で提供している。

 また香港では、2段階定額の最低料金で利用できるデータ量を5倍に引き上げ、超過ぶんの課金上限を高くするなど、料金内容の変更を行なうキャリアも出てきている。日本でいえばパケットの2段階定額の下限部分を引き上げ、一方で定額上限を従来よりも高額にするようなものだ。香港のHutchisonは従来50MBで約1000円/月、それを超過した場合は約3200円/月で定額になるプランを提供していた。それを250MBで約650円/月とし、無料利用ぶんの増加と基本料金を値下げ。一方、超過した場合は上限を約9000円/月と3倍に引き上げた新プランを投入している。Hutchison関係者によれば、スマートフォンのライトユーザーならば50MB、多少使う利用者でも250MB程度で十分という利用結果が出てきており、一方でヘビーユーザーにはそれなりの負担を求めるための新料金設定だという。なおHutchisonもWi-Fi定額を無料でつけており、街中のホットスポットエリアではそちらを自由に利用することもできる。

韓国ではLTE開始に合わせてパッケージ制に変更
teigaku
↑基本料金で利用できる無料ぶんを使い切った後は従量課金となる。

 このように海外では“安価なデータ定額”という動きが少しずつ廃止となる動きが見られる。その一方で、Wi-Fi定額サービスのセットが進むなど、スマートフォン向けの新しい料金・サービスが広がっていくだろう。3GとWi-Fiの自動切り換えアプリを提供するキャリアも出てきており、利用者側の回線の使い分けもこれからはシームレスになりそうだ。とはいえWi-Fiの併用は増大するデータトラフィック解消の抜本的な対策とは言いにくい。SNSの通信は低速度、ストリーミングビデオはデータサイズを低減するなどアプリケーションやコンテンツ側の進化もこれからは必要だ。また日本通信やアメリカのVirgin MobileのようなMVNOキャリアは、これからも速度を絞りながら定額料金は継続していくだろう

 すなわち今までのデータ定額がいきなり数倍になる、という動きが起きることは考えにくい。そしてLTEが本格的に普及するころには、これまでとは概念が大きく異なるデータ通信の使い方や料金体系が提供されることだろう。

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