2011年10月07日13時00分

【Thanks a lot, Steve. 追悼スティーブ・ジョブズ】超・経営者 スティーブ・ジョブズ

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この追悼記事は週刊アスキー10月25日号(10月11日発売)に掲載される内容を再構成したものです。

超・経営者 スティーブ・ジョブズ

【Thanks a lot, Steve. 追悼スティーブ・ジョブズ】超・経営者 スティーブ・ジョブズ

■先見性に富むビジョナリー

 「ときに、すべてを変えてしまう革命的な製品が現われる。みずからのキャリアで、一度でもそうした製品をつくれればとても幸運だ」。初代iPhone発表の席上、スティーブ・ジョブズは、そう語った。

 その意味で、ジョブズ自身が成し遂げたことは、幸運を通り越して奇跡と呼ぶにふさわしい。

 彼が世に送り出し、世界を変えた製品を挙げれば、少なく見積もってもAppleⅡ、初代Macintosh、iMac、iPod、iPhone、iPadと6つはある。これを可能にしたのは、ジョブズがもっているたぐいまれなビジョナリー(ビジョンを提示する者)としての資質だった。

 たとえば、'77年に発売したAppleⅡのとき。IBMがオモチャ扱いしたパーソナルコンピューターこそが個人の可能性を広げるツールであると見抜き、まだキット販売が主流だった時代に、世界で初めて樹脂ケース入りの完成機として販売した。

 また、ゼロックスのパロアルト研究所を見学した際には、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)がコンピューターの大衆化のカギになると確信。限られたビジネス・学術用ワークステーションにしか使うつもりがなかったゼロックスを尻目に、'84年、独自のアイデアに満ちた初代Macを生み出した。

 初代iMacやiPod、iPhone、iPadもアナリストやマスコミは「そんな奇妙で高い製品は売れない」と酷評したが、発売されてみれば消費者の支持を集めポストPC時代の礎を築いた。同時に、パーソナルコンピューターがデジタル家電を束ねる“ハブ”に進化すると予言。iTunes Storeを通じて、音楽や映像などのダウンロード販売が一般化した。ジョブズのビジョンがなければ、この世界は確実にいまとは違うものになっていたのである。

■決断力に秀でた勝負師

 優れたビジョンをもっていても、その中から真に有望なものを選び取る決断力がなければ、単なる夢想家に終わる。事実、'85年から'96年のジョブズ不在時にも、アップル社内では数多くの進歩的なアイデアが生まれたが、乱立しすぎて自滅した経緯があった。

 ジョブズは、Apple Ⅰを設計しただけで満足していたオタクのスティーブ・ウォズニアックを説き伏せてアップル社を設立。初代Macのとき社内の主流派を“海軍”にたとえ、自らは“海賊”となる道を選んで少数精鋭の同志を募り、逆風の中でプロジェクトを推進した。

 また、アップル社の暫定CEOに返り咲いたときには、アナリストたちが「アップル社が生き残る唯一の戦略」と言ったMac OSのライセンスビジネスを打ち切って自社ハードのみで勝負することを決定。宿敵マイクロソフトとの特許係争に終止符を打つ代わりに同社から出資を引き出すなど、体裁にこだわらず、自分が最善と思う選択を次々に行なった。

 さらに、旧式の入出力ポートを切り捨て、ウィンドウズ系のメーカーに先駆けてUSBなどの新規格を積極的に採用したのもジョブズの決断だった。この決断がなければ、PC周辺機器のUSB化が確実に数年は遅れていただろう。

■実行力を伴った指揮官

  ジョブズをジョブズたらしめたもうひとつの資質は、実行力に尽きる。もちろん右腕となる優秀な部下たちがいての話だが、Macの存続に不可欠だった旧Mac OSからMac OS Xへの移行やインテルCPUの採用は、それだけで偉業に近い大仕事と言えた。

 ジョブズは、ピクサーのCEO時代に、CG映画製作に関するディズニーとの不平等な契約を覆したことがあった。その論法は「ピクサーをほかの映画配給会社と組ませたくなければ、さかのぼって平等な契約に更改せよ」というもの。映画界の巨人ディズニーに対してこれほど強い態度で臨めたのは、ジョブズひとりである。

 そして、CEO辞任の引き際も見事だった。かねてより、その職への期待と義務に応えられないときが来たら真っ先にアップルコミュニティーに報告するとしていたが、派手な演出もなく一通のメッセージのみで表舞台から姿を消した。このこと自体、“先見性”、“決断力”、“実行力”の3要素の融合によって実現した最高の幕引きと言える。スティーブ・ジョブズこそは、当代随一の超・経営者だったのだ。

大谷和利
テクノロジーライター、原宿『アシストオン』取締役。アップル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆とコンサルタント活動を行なう。近著に『iPadがつくる未来』(アスキー新書)。

 

 

●関連サイト
【追悼】「スティーブ・ジョブズ」の軌跡(ASCII.jp特集)

CEO スティーブ・ジョブズ - MacPeople Web
Mac People12月号増刊 CEOスティーブ・ジョブズ

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