2011年09月28日12時00分

“この時代に音楽をつくって生きていたという証拠”サカナクション山口一郎氏インタビュー

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 サカナクション山口一郎氏に9月28日リリースの新作『DocumentaLy』に関する想いをたっぷりと伺いました。なお、週刊アスキー9月27日発売号にはプレイリストと愛用機材も掲載中。併せてチェックしてください!

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リアルを歌うべきだと

山口 新作は日常の中にいろいろな起伏が多かったので、いつものアルバムよりも思いが深く入り込みました。2011年は震災もあり、10年後、20年後に語り継がれていく。そして僕らの今の決断が、未来の僕らや子どもたちにも影響を及ぼす大事な年。この1年を、時代をどう歌うかを深く考えると、必然的に時代性、つまり“リアル”を歌うべきだと気づいたんです。

――そのリアルとは具体的に何でしょう。

山口 目の前にある身近な不安と絶対的な社会の不安。その二つを人々が比較し生きる中で、僕らミュージシャンは自身が何を思うのかを歌い、音楽にするかがリアルだし重要だと思ったんです。そして直接会わなくてもネットで繋がる感覚のある時代に、目には見えない音楽で繋がることとは何なのか。それも意識した上で僕らがやるべき事、音楽の必要性を考えました。結果、リスナーに寄り添える物をつくらなくてはと思ったんです。

――それが今の音楽の役割だと。

山口 それで、『エンドレス』という軸になる曲を完成させるまでの記録映像を収録しました。他人がつくった音楽は勝手に通り過ぎて行ってしまうけど、自分の恋人や家族、友だちがつくる音楽ならば、相手を知っているぶん聴こえ方が変わってきますよね。音楽は人を知り、好きになることで聴こえ方が変わる。僕はリスナーと普通の友達、人間として触れ合って、もっと濃く繋りたいと思うんです。

――確かに、つくり手の現実の姿を見ることでよりリスナーとより深く繋がり、相手への音楽の浸透力が増しますね。時代のリアルと自らのリアルを込めたからこそこのタイトル?

山口 だからアルバム名を『DocumentaLy』にしたんです。今この時代に音楽をつくって生きていたという証という意味を込めています。

――その制作現場を収録した『エンドレス』、人間の裏表というか、いつでも被害者にも加害者にもなれる恐怖を聴いて感じたんです。

山口 今は本当にそれが身近にありますよね。ツイッター、YouTubeなどがいい例で。作品に対する感想を書くのではなく、すでにあるコメントにコメントするという現象が起きていて。いかにクレバーなコメントをするかでみんな競い合っている。誰かを笑って、それをまた笑う人がいて、それに対して否定する人がいて、それを傍観する人もいて……永遠に続いていくわけですよね。その変な感覚には終わりはない。でもなぜか未来への希望や不安も内包している。その中で何を頼りにするかと言ったら、結局自分しかないんですよね。

――だからこそ、作品に自分自身のリアルを落とし込むんですか。

山口 音楽を発信している立場として、人間として自分はどうなのかがすごく重要になってくるんです。そこを見られるし、さらけだすから。だからこそ、磨かなくてはと思います。僕は音楽しか好きじゃないし、それしか興味がない人間として生きてきたから、せめて音楽の中だけでは健全に戦っていきたいんです。
 日常では自分で自分を指さすことはないけど、音楽の中ではきちんと指させるようになりたい。ならば自分が思ったことをそのまま歌にするしかない。そういう想いがこの『エンドレス』には入っています。それにいろんな悲しみがこの曲の中には入っていて、これを終わらせないとこのアルバムは完成しないと思っていたんです。この曲が完成するまではほかの曲に手をつけることもなく、必死につくっていたのでできあがった時は「あぁ、これでアルバムができた!」と思いましたね。

――とはいえ制作現場も含め自身をさらけ出すのは恐さもあるのでは?

山口 リテラシーを駆使し、エンタテインメントとして成立する音楽もありますが、僕らのような人となりを見せる音楽も対極として必要なんです。最も時代を歌っているロックバンドが今売れないのは、音楽に求められる意味が変わってしまったから。僕はそれは違うと思うし、いつか必ず変えたい。エンタテインメントとロックとの格差をもっと縮めていきたいし、僕らの世界の面白さを広めていきたいと思っているんですよ。

新しいことが始まりそうだ

――ところで前作『kikUUiki』に比べると若干明るくなった気がするんです。

山口 今回はシングル曲が3曲入っていて、積極的に人に聴いてもらおうと思ってつくった曲だから、それがある時点で明るいと思うんです。その具合も飛びぬけて明るいのではなく、寄り添えるくらいの明るさでよかったなと思います。それにラストの『ドキュメント』も僕は明るめの曲だと思うのですが、実はほぼアドリブでつくったのでピュア、素の部分が出ているんですよ。歌詞もそうで、アドリブで歌って、あとで歌詞を振り返ったらザワッとするくらい、アルバムを振り返っていて、それが無意識ながら自分の中にあったことがうれしかったんです。すごくパーソナルな部分が出たし、これからを暗示してもいるようで、楽しみだなって。僕はこの曲ができたことで未来を感じられたし、これから新しいことが始まりそうだと初めて自分に期待がもてたんです。

――先ほどの軸となる『エンドレス』で一度アルバムが終わり、インスト『DocumentaRy』を挟み、またシングル曲『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』で始まる。そしてラストが『ドキュメント』で未来が見えた。そんなストーリーなのだろうなと思いました。

山口 この間にある2曲はシングルに入っていた並び順そのままなんです。『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』は日常、『years』は時代を歌っていて、2曲でひとつなんです。昔の自分の日常と時代を歌った2曲、そして記録でアルバムが終わる。おもしろくできたなと思います。自分でも信じられないくらいこのアルバムを聴くんですよ。前作『kikUUiki』では精根使い果たして「もういいや!」くらいの気持ちになっていたんです。今このアルバムが自分でも聴けるということは、先ほども言ったようにアルバムに未来があるからなんですよね。自分がつくったものに未来を感じられるのは初めてだから。今は制作が終わった直後で枯渇しているけど未来があるという不思議な感覚なんです。

――未来があるというのは前に開かれているということですよね。

山口 そうですね。最近、挑戦するベクトルが変わってきたんですよ。さっきも少し話しましたが、ロックは閉鎖的でセールス的な話をしてもマイノリティーなジャンルで、どんなに売れているバンドでも、リテラシーを駆使し、エンタテインメントとして成立する音楽のセールスには届かない。
どうしたらいいんだろうと考えて、変えるために僕らは大きなマジョリティー、エンタテインメントの世界にマイノリティーとして食い込み、ロックの世界でのマジョリティーを目指さないといけないという気持ちがあって。そこを目指すというのが、このアルバムを制作したことではっきりわかった。そこへ向かいたいという気持ちが未来を感じさせるのかもしれないですね。

――時代、リスナー、自分、そして音楽、たくさんの事象に対して真っ向勝負を挑むということですね。

山口 このアルバムを制作したことでミュージシャンとして生きていく決意ができました。腹をくくれたと思いますね。この音をたくさんの人に聴いてほしい、そう願っています。
 

サカナクション ニューアルバム
『DocumentaLy』

時代と自らの想いを率直に表現

前作『kikUUiki』から約1年半ぶりの新作は今の時代と自らの想いを赤裸々に表現。つくり手の強い意志を楽曲や映像のすべてから感じる傑作だ。
●初回盤A3500円、初回盤B3000円、通常盤2800円 ●9月28日発売 ●ビクターエンタテインメント     
 

【プロフィール】
山口一郎(Vo.&Gtr.)、岩寺基晴(Gtr.)、草刈愛美(Ba.)、岡崎英美(Key.)、江島啓一(Dr.)によるロックバンド。10月1日より全国ツアー『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy』を行なう予定。

●関連サイト
サカナクション公式HP
 

 

 

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