パレスチナ
著 ジョー・サッコ
いそっぷ社
1890円
世界の果てでも漫画描き 1
著 ヤマザキマリ
創美社
620円
パリパリ伝説 1
著 かわかみじゅんこ
祥伝社
840円
自分の国ではない“外国”を観察するエッセイコミックはすでに“異文化体験”という設定だけでおもしろいはずだというアドバンテージを持っているように思える。しかし外国についてもこれだけ情報が氾濫している昨今、逆にそこにあぐらをかいているような作品は凡庸をまぬかれない。今回は秀逸な“異文化観察”の3作を紹介する。
まず'90年代初頭イスラエル占領下でインティファーダ(蜂起)をしている最中のパレスチナを描いたジョー・サッコ『パレスチナ』(いそっぷ社)。エッセイというよりジャーナリズムである本作にはマンガのデフォルメの手法が徹底して駆使される。狂信的なイスラエルの入植者を途方もなく尊大に描いたかと思うと、まるでビデオカメラのフィルムのような均等なコマ割りでイスラエル警察の拷問を描く。現実を自由自在に歪める弾力で、リアルに迫るのである。
次にヤマザキマリ『世界の果てでも漫画描き』(創美社)。小学校時代のあまり根拠のない妄想を頼りにキューバに農作業ボランティアに出かける体験を描く。1本刈るだけで手が痛くなり過労で早死にをもたらすとされるサトウキビ収穫労働に、マラリア蚊の大群とたたかいながら取り組む。ごちそうを絵に描かせて思い出すほどの貧しさのなかにある子どもたち、なのに毎日踊り狂っているキューバ人の姿をヤマザキは活写する。取りあげられるエピソードのひとつひとつがよく考え抜かれているのだ。さすが『テルマエ・ロマエ』を世に出しただけはある。
最後はかわかみじゅんこ『パリパリ伝説』(祥伝社)。パリでの生活と子育てを4コママンガで描くという、下手をすればおもしろくもなんともなさそうなものに仕上がりかねないところを、ぼくは毎巻楽しみにしながら買う。何がぼくにそう思わしめるのか不思議なのだが、やはりオチが素晴らしい。特にフキダシの外に描かれた手書きが読むものを大いにくすぐるのだ。
紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。
※本記事は週刊アスキー823号(3/1発売)の記事を転載したものです。
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