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【私のハマった3冊】処理能力を超えた新幹線システム 予測できない事故をどう防ぐか

2011年02月16日 07時00分更新

BOOK

続・失敗百選
著 中尾政之
森北出版
3780円

定刻発車
著 三戸祐子
新潮文庫
620円

不安定からの発想
著 佐貫亦男
講談社学術文庫
882円

 年明け早々、JR東日本の新幹線が一時、全線でストップした。『COSMOS』と呼ばれる運行システムが、処理能力を超えたためだ。これについてJR側は「システム設計上の配慮不足だった」と陳謝した。ただ、『続・失敗百選』によれば、ソフトウェアの事故は複雑すぎて、いくら設計者が天才でも容易に予測できないという。本書にも、サッカーくじtotoの購買客がコンビニなどの端末に殺到、想定以上の多量の処理によりシステムが遅延し販売中止となったケースが紹介されている。

 この本の趣旨は、過去の失敗事例から、将来の失敗を予見し、未然に防ぐことにある。著者自身、大阪の個室ビデオ店の火災を受けて、所属する大学の研究室の中2階を防火のため取り壊したという。ちなみにこの中2階は、ドラマ『ガリレオ』に出てくる大学の研究室のセットとそっくりだったとか。

 さて、先の新幹線のトラブルのそもそもの原因には、東京近辺の線路を複数の路線が共有しているということもあげられるだろう。それでも新幹線を含め日本の鉄道は、線路にも設備にも余裕のないなか、緻密な計画や現場の対処によって定時運転を実現してきた。

『定刻発車』は、その驚くべき運行システムを解説するとともに、人海戦術を前提としたこうしたシステムの安定が、少子高齢化を迎えた社会のなかでも可能であり続けるのかと問う。

『不安定からの発想』によるとライト兄弟は、その飛行機自体は不安定な設計ながら、操縦=制御する能力により人類初の動力飛行に成功した。この点、日本の鉄道とどこか似ている。

 本書の原本は'70年代、オイルショック後のまさに不安定な時代に書かれた。そこには、力学の法則などを現実社会に応用し、様々な問題に対処するためのヒントが提示されている。ますます先行きの見えにくくなっているいま、文庫として復刊されたのも納得がいく。

近藤正高
ライター。新幹線の歴史をたどった最新刊『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)が絶賛発売中。

 

※本記事は週刊アスキー821号(2/15発売)の記事を転載したものです。

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