会場一面、血の海である。もちろん来場者の鼻血だ。
7月10日より東京都現代美術博物館(東京都・江東区)で開催される『特撮博物館 -ミニチュアで見る昭和平成の技』のオープニングレセプションに参加してきたので少しその内容をお伝えしよう。(企画展の概要はコチラの記事で。)
↑館長の庵野秀明氏(中央)、副館長の樋口真嗣氏(左)、スタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫氏(右)。『巨神兵東京に現わる』で実際に使われた特撮セットの前で。 |
9日はプレスのみの見学日だったのだが、朝から取材陣が詰めかけ、午後2時の開館式典の際には、私の見る限り、その人数は200名近くにまで膨れ上がっていた。普段からプレスでござい、といった体でこの手のイベントに集まる業界っぽいおっさん達が、入場前からこれほど鼻息を荒くするイベントは珍しいのである。相当キレイに掃除している美術館でなかったら砂塵が舞ってるレベルである。
そしていよいよ入場。
会場入り口から通路を進むと、まず高さ2メートルほどのミニチュアの東京タワーがお出迎え。
↑『モスラ』オリジナル図面から再制作(2003)された東京タワーと1961年版『モスラ』の8シートポスター。 |
映画『モスラ』で使われたミニチュアが、当時の劇場を偲ばせる巨大ポスターと共に展示されている。この時点ですでに私の鼻からは推定1リットルほどの鼻血が漏れ出ていたが、ほかの来場者も同様だったようで、会場の床は入り口からして一面血の海(もちろん比喩表現です)。ふと視線を感じて振り返ると、そこにはカメラを構えたキラキラした瞳の少年の姿が! よく見るとただの鼻の下を伸ばしただらしない顔のおっさん(もちろん誇張表現です)が撮影の順番待ちをしていただけだったりと、ともかくこの会場は、一歩足を踏み入れたが最後、そんな幻覚を見てしまうほど、アメイジングでワンダーなフィーリングに包まれるファンタジーなワールドだった。
なにしろ普段はところ構わずシャッターを切りまくるマスコミ人でさえ、展示されているミニチュアを撮影するのに、他の来場者の影が入るのがイヤで、どくのを待っているような状態なのだ。そこのおっさん、それ絶対自分の写真コレクションにする気だろ。うん、まぁ、俺もだけど。
それでは、それほどまでに、我々おっさんを夢中にさせた展示物の数々の一端を、ご覧いただこう。
会場は全体で10のセクションに分れており、最初のセクション『人造 原点I』には、各種特撮映画やテレビドラマで使用された空想科学兵器やその設計図、架空の新聞記事などの人工物が展示されている。先程の東京タワーの向かいには、映画『メカゴジラの逆襲』で使われたメカゴジラ2のアクタースーツが、ケースに入れられるでもなく、まるまる1体展示されているというサービスっぷり。
↑『海底軍艦』(1963年)に登場する轟天号や『惑星大戦争』(1977年)の宇宙防衛艦 轟天、ドリル、『極低探検船ポーラーボーラ』(1977年)のポーラーボーラ。壁面には、迫力ある小松崎茂氏のプラモデル用パッケージイラストも。 |
↑劇場版『日本沈没』(1973年)に登場した“わだつみ”が!! |
『メカゴジラの逆襲』(1975年)メカゴジラ2 スーツは全身が展示されています。側には人工頭脳も。 |
TM&© 1975 TOHO CO.,LTD. |
第2セクション『超人 原点II』では、『ウルトラマン』に代表される特撮ヒーローに関する展示物が並ぶ。圧巻は、ウルトラシリーズに登場する警備隊メカの撮影プロップが集合した中央の展示エリア。あの、散々プラモデルを作り、ため息をつきながら写真を眺め、搭乗までをも夢見た乗り物たちが一堂に会しているのだ。どんだけ豪華な秘密基地だよ、おい。その周りの壁面からは、ウルトラマン、ウルトラセブンら、歴代ヒーローのマスクが来場者たちに微笑みかける。
マスク達 「やあ、君が来るのを待っていたよ」
俺 「二マーッ」(やや赤ら顔)
↑『ウルトラマン』(1966年)のウルトラマンBタイプマスク。 |
© 円谷プロ |
↑怪傑ライオン丸、ジャンボーグA、ジャンボーグ9、ファイヤーマン、グリーンマンなどの懐かしのヒーロー達が総出。 |
© 円谷プロ |
そのほかにも、『流星人間ゾーン』、『トリプルファイター』、『怪傑ライオン丸』など、他のヒーローのマスクがずらりと並ぶゾーンもあり、もうおっさんらの心臓鷲掴みである。
↑『ウルトラマン』(1966年)の飛行シーン用ウルトラマン。 |
© 円谷プロ |
↑『帰ってきたウルトラマン』(1971年)のマットアロー2号。 |
© 円谷プロ |
そして第3セクション『力』では、いっきに時代は平成に移り、我らが樋口真嗣監督が特技監督を務め、特撮パワーの素晴らしさを再認識させてくれた、あの平成『ガメラ』シリーズ、『日本沈没』のミニチュアを展示。
↑『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年)で使用されたガメラスーツが全身展示されている。 |
©1996 角川映画 NHFN |
セクション入口で、『ガメラ2 レギオン襲来』のガメラスーツ(超カッコいい!!)と、その足元に置かれた、『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』で使われた、渋谷パンテオンのミニチュアセット(すげーデキ!)を堪能したら、その流れで展示されている民家や電柱、街灯、高圧線などのミニチュア展示を眺めていると、だんだんと自分が巨人になったような気になってくる。
そのまま進むと、突如崩壊した国会議事堂のミニチュア(映画『日本沈没』)が現われ、続いていよいよ本博物館の目玉のひとつでもある特別作品『巨神兵東京に現わる』の撮影用ミニチュアセット、溶解した東京タワーの奧がミニシアターとなっている。この日のために制作されたショート特撮フィルム(実はデジタルなのでフィルムではない、と庵野館長は2度も言ってましたが)が上映されている。
↑『日本沈没』(2006年)で破壊された国会議事堂のミニチュアの一部。是非、会場で全体像を見て圧倒されて欲しい。 |
©2006 映画「日本沈没」製作委員会 |
↑巨神兵によって壊された東京を象徴する、東京タワー。奧からは短編映画の音が漏れ聞こえてきて、否応なしに心臓が高鳴ること間違いなし。 |
ジブリ作品『風の谷のナウシカ』に登場する巨神兵が、現代文明社会を崩壊に導く火の7日間を、特撮によって再現した本作品は、破壊そのものを魅せる演出と、先人が連綿と築き上げた特撮技術の粋を集めた結晶だ。一見するとCG処理のように見えるシーンが多々あるが、すべてミニチュアによる特撮である。正に驚愕の一言。特撮ファンの方は、ぜひ、どうやって撮影したのか想像しながら観てほしい。
ここから順路はエスカレーターを下って地下の展示エリアへ。
↑地下の特撮美術倉庫には年期の入ったさまざまなミニチュア、パーツ、道具が所狭しと並んでいる。奧には巨大なアノ!戦艦も。 |
第5セクション『特殊美術係倉庫』。エスカレーターを降りると目の前にバラックのような倉庫の入り口が。倉庫入り口には、実際の倉庫を外から覗きこむ兄妹の姿を写したスナップが飾られ、否が応でも、心は禁断の倉庫を覗き見るいたずらっ子に引き戻される。この中は東宝特撮美術の倉庫を模した展示エリアになている。残念ながらここから先は撮影禁止エリアなので写真はお見せできないが、雰囲気だけでも文章でお伝えしていこう。所狭しと並べられたミニチュアの戦車群。無造作に吊り下げられた飛行機。壁面の棚には、ラテックスがはがされたゴジラの頭部ロボット(目玉が稼働したり、口パクしたりする)や、巨大な潜水艦ローレライのプロップが。本当に倉庫に迷い込んだようだ。最奥には平成版キングギドラのスーツと、モスラの幼虫のミニチュアが飾られている。
次のセクションは、『特撮の父・円谷英二』のパネル展示と、円谷監督が愛用した35ミリフィルムカメラ、NCミッチェルの実機が。
続く『技』のセクションでは、造形やデザイン美術など、特撮現場で培われた技の数々を、人物に寄って紹介。特殊美術、イメージボードの数々、大魔神ヘッドやゴジラの造形、ウルトラマンのカラータイマーやウルトラアイなど、電飾の技。これらの展示コーナーでは、実物もさることながら、各コーナー毎に設けられたムービー解説に注目してもらいたい。へー、っと唸ってしまうような発見が多くあるはずだ。
さらに『研究』のセクションでは、特別企画フィルム『巨神兵東京に現わる』にて使われた特撮技術を、ムービーやパネルによって解説。さきほど観たばかりの映像を思い出しながら、あのシーンはこうやって撮られたのか! と驚きながら進むといい。
そして最後に、『特撮スタジオ・ミニチュアステージ』。ここでは、ミニチュアによって再現された街並みを自由に撮影できる。友達といっしょなら、街に降り立った巨人として写真を撮ったりできちゃう夢のステージだ。思う存分堪能しよう。
↑『巨神兵東京に現わる』の撮影セットをそのまま堪能できるスペシャルステージ。ビルとビルの隙間から撮影すれば、巨神兵の気分を存分に味わえる! |
展示エリアが終わってもまだまだ博物館めぐりは終わらない。お約束のアレが待ってます。お土産販売コーナー! いやー、これは目の毒だー。ダメダメ、そんなに買えないってー、まいったなぁ、俺今日5万くらいしか持ってきてないよー。というくらいヤバいコーナーなので、お財布の中身が心配な人は駆け抜け推奨ですが、ひとつだけこれは絶対買っとけ!という品が。それが会場限定の展示図録とパンフレットのセット(2700円)だ。これには、博物館に展示された数百点からなる展示物がほぼすべて(撮影禁止物まで含め)収録されている。もしかしたら、発見し損ねたアイテムまで見つかるかもしれない。ご来場の際にはぜひ。資料としてもマジおすすめ。
↑村野が夢中になった究極のウルトラマンと究極のウルトラセブン(各7万1400円/予約商品)。 |
© 円谷プロ |
↑特撮博物館にちなんだ商品だけでなく、書籍やBD映像などお宝が勢ぞろいしている。 |
↑時を忘れるほど濃厚な情報が詰まった会場限定の展示図録とパンフレットのセット(2700円)。 |
というわけで、駆け足で周ってきた『特撮博物館』、遠方の方でも、少しは行った気になっていただけただろうか? そして、東京近郊にお住まいの方なら、ぜひ開催期間中に会場に足を運んでみてほしい。
おっさんなら、絶対後悔させないどころか1日中いたのち、翌日にまた訪れてもいいほどの展示内容になっている。小さいお子さんでも絶対楽しめる。女子の皆さんをデートに誘うのにもいいかもしれない。ご家族揃ってワイワイ行くのも楽しそう。
ともかく、この夏、東京都現代美術館に集結すると大吉ですぞ!
↑海洋堂の『巨神兵カプセルフィギュア』は会計出口付近に設置(1回500円)。もちろん自腹で回しましたし、編集部では宮野編集長(激シブVer./シングルコイル画)と組み合わせて飾っていますよ! |
(c)2012二馬力・G |
『館長 庵野秀明 特撮博物館 ~ミニチュアで見る昭和平成の技~』
開催期間 7月10日(火)~10月8日(月・祝)
開催時間 午前10時〜午後6時
開催場所 東京都現代美術館 企画展示室1F・B2F
チケット 大人1400円(前売り1300円)、中高生900円(前売り800円)、小学生400円(300円)、小学生未満無料
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